2010年12月28日火曜日

本人確認が読解力の神髄

『読解力の基本』(速越陽介)読みました。


2010年に読んだ本の中で、
反面教師的に勉強になった本の2冊目でした。

1冊目は『面白くて眠れなくなる数学』。
とりあえず1つの話の中では、
結論をいわないと、読者は消化不良になっちゃうんだなってことを
教えてくれました。

そして、2冊目がコレ。
小学生向けに教えるべき内容なら、
大人向けの本として売っちゃいけないよ、
ってこと学びました。

本のつくりも、文章も
すっきりわかりやすくてよいのですが、内容が……。

例えば。
ぼくは「悪文を読むためのテクニックを紹介」って謳い文句に
惹かれてこの本を読み始めたのですが、その答えは、

「悪文で意味がわからないときには書いた本人に確認しましょう」
という内容。

その文言を読んだときは、
思わず苦笑いしてしまいました。

さらに、意味のわからない文章でも、
「知らなくていいことは、確認してはいけません」って感じで説明が続く。

これが読解力!

うーん、これはものすごい勇気がないと書けない言葉だと思います。


読解力の基本読解力の基本
速越 陽介

日本実業出版社 2010-10-18
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2010年12月20日月曜日

ツルツルの図太い神経回路

『文章がうまくなるコピーライターの読書術』(鈴木康之)読みました。

「インドに旅行に行って、はまりすぎて、
向こうに住み着いちゃう人がケッコいるって聞くけど、
やっぱり衝撃だった? なんか人生観変わった?」

「もう少し若いときに行っていたら
何かあったかもしれないけど、
もうすぐ40歳のおっさんだよ。
ただの観光だったよ」

インド帰りの友だちと、
昔こんな会話をしたのを覚えています。

ささくれがとれていない若い時代なら、
少しの刺激が、大きな痛みや楽しさになって返ってきたけど、
すっかりツルツルの図太い神経回路に成長してしまったおっさんは、
外界からの刺激には、たやすく流されないってことですね。

幸いに、というか悲しいことに。


で、この『文章がうまくなる〜』。

やはり、ぼくも、もうおっさんでした。

読んでいる途中で、頭の中に浮かんできた言葉は、
「まぁ、ね」
「そうだね、そんなこともあるよね」
「いいかもね」など。

テレビの前に転がっている旦那に向かって、
やたら元気な奥さんが「ねぇディズニーランド行こう!」と
呼び掛けたときの返事のようなコメントばかりです。

もしかしたら、この著者が本家本元で、
この人の言葉をみんなが引用しているから
なのかもしれないんですが、
なんかどこかで聞いたことあるものばかりだったんです。

こうしたらいいよってノウハウは、
そんなに斬新な方法にはならないんでしょうね。

どっかで聞いちゃったことって刺激にはなりにくい。
インドのことも、イッテQとかふしぎ発見とかで、
現地の細かい生活ぶりまで知っちゃってるしね。


文章がうまくなるコピーライターの読書術(日経ビジネス人文庫 ブルー す 4-2)文章がうまくなるコピーライターの読書術(日経ビジネス人文庫 ブルー す 4-2)
鈴木 康之

日本経済新聞出版社 2010-05-07
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禁じ手

『神様のカルテ 』(夏川草介)読みました。

「死」にまつわるいろんなことについて、
少し前までは、なんでもかんでも避けていたぼく。

源氏物語の中に、
知り合いの家で病死した人が出て縁起が悪いからと、
その家のほうには近づかなくなってしまう貴族の話が
滑稽に語られていますが、その人と一緒。

死という文字も、単にそれを連想させるものも、
なるべく使わないようにして過ごしてきました。

でも、仕事で、葬儀法要のマナーについて記した実用書を
つくったのをきっかけに、
そんなの関係ない、
と受け入れる度胸がついてきたように思います。

どんなに避けていても、避けきれないものですからね。

で、その本をつくったときに、
度胸と同時にもう一つ身についたもんがあります。

読者を泣かせるコツです。
コツといっても、特に難しい技法でもなんでもなくて、
単に登場人物が死んじゃうシチュエーションをつくればいいだけ。

これがあればたいていの人は泣きます。

特にそのシチュエーションが決まり事のように
物語の根底に流れていれば、
あとはその逆に、
その登場人物が人生をめちゃくちゃ楽しんでいる姿を盛り込む。
そうすると書いている本人も泣きます。

そしてそのコツに気づいたとき、
「これは安易に使ってはいけない」と思ったんです。

これはドラえもんに、
どんな球でもヒットにできるバットを出してもらい、
それを使って野球をするようなもの。
それでは面白くありません。

で、この『神様のカルテ』。
泣けちゃいます。
ぼくが禁じ手にした手法を使っているので泣けちゃいます。

だから、この本のシリーズ2作目が出ていて、
それもよく売れているそうですが、ぼくは買いません。


神様のカルテ神様のカルテ
夏川 草介

小学館 2009-08-27
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2010年12月13日月曜日

もう一回、読んでみよう

『現代文訳 正法眼蔵5』(道元著/石井恭二訳)読みました。

一度手をつけたことを途中で投げ出すのが怖いぼく。
自分が決めてやったことは、
なんでもかんでも、とりあえずざっとでも、
最後までやってしまう。

そうじゃないと、
「中途半端はダメだ!」と誰かに怒られてしまうような気がして……。
そんな強迫観念にびくびくし、
やっていることが苦痛でも、つまらないことでも、
続けちゃうクセがついています。

そのクセのせいで、
どれだけ無駄な回り道をしてきたことか。

いやいや、この『正法眼蔵』が無駄だとはいいません。

でも、5巻もの全部を読み通してみても、
ぜんぜん理解できない。
理解できないにもかかわらず、
1冊400ページ近いものを5冊もぺらぺらとめくって目を通した。

よくもまあ、理解もできないものにそこまでやったなと、
我ながら感心するほどです。

スポーツでも、仕事でも、
ふだんとは違うつらいことをやった直後は、
「もうイヤだ、やりたくない!」と感じ、
しばらく時間が経つと、
「もう一回やってみたいな」って思っちゃうぼく。

今も、こんな読書のやり方は止めたいなと思っていますが、
たぶん、もうしばらくしたら、
もう一回読んでみようと思っていることでしょう。


現代文訳 正法眼蔵 5 (河出文庫)現代文訳 正法眼蔵 5 (河出文庫)
道元 石井 恭二

河出書房新社 2000-11-05
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2010年12月9日木曜日

面白さって何?

『リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下)』
(アンドリュー・ロス・ソーキン)読みました。

上巻を読み終えてすぐ買いに行きました。
ぼくには妙なジンクスがあり、上下とか分冊で売られている本を
2冊一度に買ってしまうと、その上巻は、必ず面白くないんです。
そんな目に遭うのはイヤなので、購入は1冊づつ。

そんで購入後、即座に読みました。

結論は、上巻の面白さを2倍したくらい面白かった。
この面白さって何なんでしょうかね。

これはノンフィクションなので、ホントにあった話。
それでも登場人物がみんな真剣に右往左往してるんです。

しかも、小説とかによくありがちなタイムリミットがあり、
そのときまでに何か手を打たないと、破滅しちゃうってシチュエーション。
ハラハラドキドキなんです。

当事者たちにとっては、とてつもなく困難な作業を、
命を賭けるほど熱さで取り組み、
それでも次々に壁が立ちはだかり、いくつかの作業は水泡に。

……で、そんな緊迫のドラマを、
せんべいなんかをボリボリしながら、まったく人ごとで楽しんでいる。
なんだか不謹慎なんだよなって思いながらも、面白がってしまう。

ホント、面白さって何なんでしょうかね。

ということで、今年2010年に読んだ本の中の5つ星作品が1つ増えました。
ちなみに5つ星は今のトコ、この本を合わせて4つ。
残り3つは、『ペンギン・ハイウェイ』『「悪」と戦う』『八朔の雪』です。


リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下) 倒れゆくウォール街の巨人リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下) 倒れゆくウォール街の巨人
アンドリュー・ロス・ソーキン 加賀山卓朗

早川書房 2010-07-09
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2010年12月1日水曜日

頭の中に「もし」の連射

『リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上)』
(アンドリュー・ロス・ソーキン)読みました。

歴史で「もし」を語るのは無意味だといわれます。
関ヶ原の合戦で徳川軍が負けていたらとか、
太平洋戦争で日本が勝っていたらとか。

そんな「もし」を仮定しても、
事実は変えられないのだから無意味だと。

でも、ぼくは「無意味」がもう少し違う意味を
持っているような気がするんです。

事実を変えられないから無意味なんじゃなく、
いろんな「もし」が本当にあって事実が変わっちゃったとしても、
結局のところ現在の世の中って、
同じなんじゃないかなって。


「もし」を語ろうが語るまいが、
「今現在の世の中は一緒だよ、
人間がやること、やれること、つくれるものなんて
そうそう変わるものじゃないんだから」みたいに思うんです。

そんな意味で、「もし」を考えるのは、無意味なんだろうなって。

で、この『リーマン・ショック〜(上)』。

読んでいる途中で
「あれ? もしかしたら、このリーマンの社長が
この発言しなかったら、世界中の不況もなかったんじゃない」
「この財務長官が違うこと言ってたら、
もっと早く手を打てたのに」というように、
「もし」ばかりが頭に浮かびました。

「もし」が現実になった場合でも
世の中や歴史は変わらないものだと言ったばかりの頭が、
「もし」を連射で考えていたんです。

リーマンの社長がなんて言おうと、
財務長官がどんな行動をしようと、
きっとリーマンショックと同じような経済の動きって
日本にも来たんだと思います。

そしてもうひとつ間違いなくいえることは、
ノンフィクション物を読んでいるときに
頭の中に「もし」が連射される作品は、
ぼくにとってとんでもなく面白いってことです。

さあ、下巻を買いに行ってきます。


リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上) 追いつめられた金融エリートたちリーマン・ショック・コンフィデンシャル(上) 追いつめられた金融エリートたち
アンドリュー・ロス・ソーキン 加賀山卓朗

早川書房 2010-07-09
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2010年11月25日木曜日

記事は記者さんの作品です。

『梅棹忠夫 語る』(小山修三)読みました。

10年以上昔のことです。
映画監督の大林宣彦さんに、
記事をつくるためインタビューをしました。

人生についてとか、やさしさとは何かとか、
ためになるお話をたくさんしてもらったような記憶があります。
でも具体的に何を語ってもらったのかは、おぼろげ。

なんですが。

一つだけはっきりと覚えている言葉があるんです。
それは、「大林宣彦 語る」みたいな記事をつくったあとで、
原稿をチェックをしてもらいたいとお願いしたときの返事。

「記事っていうのは、
僕の語りおろしという形態をとっていようがどうであろうが、
それを書いた記者さんの作品なんだよね。
だから、僕は明らかに事実関係が間違っているような
場合じゃなければ、修正は入れませんよ」

ぼくがこの言葉を覚えていたのは、やっぱ仕事柄なんでしょうね。
「修正は入れません」と言われるのは、
一方でとってもありがたく、一方でとっても怖い。
全部お前の責任だからな!って宣言されるってことだから。

そう、インタビュー記事は、
しゃべったこと全部を一字一句文章にするわけじゃないんです。
話してもらったことのニュアンスだけをくみ取って、
その意図にぴったり合うような表現に変えちゃう。
しゃべったママでは意味も通じないし、
へんてこな文章になっちゃうって場合がほとんどだからです。
 
で、この『梅棹忠夫 語る』。

今いったような作文作業はしているだろうし、
順番も入れ替えてたりして、本をつくっているのだと思います。

でも、ぼくは「しゃべったまま」って感じがしちゃいました。
頭の悪いぼくには、もうちょっとまとまったつくりが必要なんです。

この本を読んで、
梅棹さんって人はとても面白い人だってわかったけど、
その面白さを実感するには、本人の著書をよむべきなんでしょうね。
ごめんなさい。ぼくはまだ一冊も読んでません。

梅棹忠夫 語る (日経プレミアシリーズ)梅棹忠夫 語る (日経プレミアシリーズ)
小山 修三

日本経済新聞出版社 2010-09-16
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2010年11月22日月曜日

素晴らしい友だち

『想い雲』(高田郁)読みました。

仮面ライダー1号、2号に熱狂したので、
子どもながら「V3なんてちゃんちゃらおかしいぜ」といいつつ、
がぜん引き込まれていった真ん中ジャバラ顔の一文字隼人。

『ゴッドファーザー』があまりにもよかったので、
「あれを超えるものは、簡単にはつくれないでしょ。
まぁ、あまり期待しないでおくほうがいいな、きっと」と思いながら
『ゴッドファーザー・パート2』を観たときの衝撃……。

続編、シリーズ物は、いつの間にか、ぼくの中で
「良い方向に期待を裏切ってくれる素晴らしい友だち」
という地位を占めるようになっていました。

だから逆に、
シリーズ物の1作目を読んで、
それほどでもなかったときにも、
2作目や3作目に手を出すことはママあり、
たいていは成功します。
例えば、池波正太郎の『鬼平犯科帳』とかです。

で、この『想い雲』。

シリーズ3作目です。
これを読み継いできたパターンは、
ぼくの中では珍しい感動グラフの動きを見せていて、
『鬼平犯科帳』パターンと『ゴッドファーザー』パターンを
組み合わせたものになっていました。

まぁ簡単にいうと、
1作目がものすごく良くて、
2作目はそれほどでもなかったってこと。

2作目がそれほどでもないのに、
3作目を読んだのは、
シリーズ物が「素晴らしい友だちの地位」を占めているから。

で、どうだったのか。

はっきりいうと、だんだん、つまらなくなってきちゃいました。
なんでかわかりません。
たぶん、ぼくの読み方が悪かったんだと思います。
というか、ちゃんと姿勢を正して読んでいないのだと。

登場人物も、文体も、主人公にいろんな苦難が立ちふさがる展開も、
なにも変わらないんですけどね。

でもなぜか、入っていかない。
やっぱ、これはぼくのせいでしょ、きっと。

ということで、シリーズ物の読み継ぎパターンが
イレギュラーになっていますが、
すでに4作目が本屋さんに並んでいるってことなので、
買ってきます。

やっぱ、「素晴らしい友だちだった」ことを実感したいので。

想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)
高田 郁

角川春樹事務所 2010-03
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いとも簡単に「違うよ」

『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く 』(藻谷浩介)読みました。


「経済のしくみがよくわかる本」みたいなタイトルの本を、
何冊かつくったことがあります。

とはいっても、
ぼくは経済学者じゃないし、大会社の経営者でもないので、
いろんな本を読みあさって、そこからエッセンスを抽出して、
難しい言葉をかみ砕いて書いたもんです。

んで、たいていは専門家っていわれる大学教授とかに
目を通してもらって、いわゆる監修作業をした上で本になります。
だから、独りよがりの間違ったことは書いてないよってことです。

そんな本の中に書いていたのは、
世間一般に「経済の基本」っていわれていることでした。

景気っていうのは、
波があって不景気の次には好景気がくるようになっているとか、
バブル景気が起こったのは、
円高不況の対策で公定歩合を引き下げたのが原因だったとか……。

で、この『デフレの正体』って本。

ぼくが、ああでもない、こうでもないと
苦労して調べて書いてきた経済の基本を、
いとも簡単に「違うよ」っていってのけています。

しかも、とても論理的に。
さらに、たぶん経済学のことなんか何にも知らない人にもわかりやすく。
学問っていうか、社会の常識っていうか、
そんなモンは、簡単に壊れたりつくられたりするもんなんですね。

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
藻谷 浩介

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2010年11月15日月曜日

20行はオレのモノ記事

『チア男子!!』(朝井リョウ)読みました。

ぼくが昔、勤めていた会社でのこと。
その会社は、雑誌にある記事みたいな体裁の広告をつくる会社です。
若かったぼくは、その記事広告を書くとき、
会社の事業内容とか経営理念とかと、
自分の意見や人生観なんかを結びつけて内容を構成していました。

「記事冒頭の10行と結びの10行の合計20行分は、ぼくのものだ」なんて
勝手に思い込んで、好き勝手に、正義とは何か、とか、
宇宙の神秘、とか、社会のひずみ、みたいな内容を、
その企業のやっていることに無理矢理こじつけて、
書いていたんです。
それでも、そのやり方はいいよって、
言ってくれる人もいたんですけどね……。

でも、ある日、
とっても上手な原稿を書くことで有名な上司に怒られたんです。

「お前の考えていることなんて、知りたいとは思わん!
読者はそんな独りよがりを求めているワケじゃなく、
純粋な情報を欲しがっているんだ。
ワザにおぼれるんじゃネエ! ええ加減にせー!!」

それでも、やっぱり若かったぼくは、
その上司がいつもは別の営業所にいて、
ぼくのいる部署には年に1度くらいしか来ないのをいいことに、
「20行はオレのモノ記事」をつくり続けていたんですが……。

ということで、この『チア男子!!』。

なんとも……若いです。
デビュー作である前作の『桐島、部活やめるってよ』は、
これが新人なの? と思えるほど、
抑制の効いた表現で、とっても良かったんですが、
2作目のこれは、残念なことに、
へたくそだなぁって感じちゃいました。

そう、ぼくが上司に言われた言葉と
同じような内容を向けたくなっちゃった。

でも、きらきらの部分はあちこちに見受けられます。
小手先のワザにおぼれなければ、
きっとすごい作品が期待できちゃう人ですよ。


チア男子!!チア男子!!
朝井 リョウ

集英社 2010-10-05
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2010年11月10日水曜日

ひょっとしてネタバレしてる?

『一九八四年」(ジョージ・オーウェル/高橋和久訳)読みました。

生来の楽天的な性格というか、怖がりというか、
嫌なことからは逃げて回る卑怯者というか、
まあいろいろ言い方はあると思いますが、
ぼくは物語はハッピーエンドじゃないとイヤです。

せっかく時間をかけて本を読むのだったら、
読後は、あー面白かった、すっきりしたと言いたいじゃないですか。

そんなんですから、
ちょっと前に大ベストセラーになった
村上春樹の『1Q84』の1冊目と2冊目を読んだときには、
「ひょっとしてこれって死んじゃうってこと?
はっきりは書いてないけど、そうなの?
それ、やめようよ」
と密かに感じていました。

そんなふうに思っていたら、
やっぱこの本には続きがありますってんで、3冊目が出て、
それがハッピーエンド的な終わり方だったんで、あー良かったと。

この時間差攻撃は、なんとも不思議な感覚でした。

で、本家本元の『一九八四年』を読んで、
「あーそうなんだ、これと同じ手法とったんだ」と
その時間差攻撃のワケを理解できちゃったんです。
(たぶんぼくの勝手な解釈ですが……)

村上春樹も本家もどっちも読んでいない人は、
なんのことやら、きっとわからないでしょう。
この『一九八四年』がハッピーエンドなのかそうじゃないのかも、
ここまで書いたぼくの文章からはわからないでしょう。

よかった、ネタバレにならないで。

村上春樹と本家本元の読み比べ、オススメです。


一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
ジョージ・オーウェル 高橋和久

早川書房 2009-07-18
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2010年11月4日木曜日

あるがままを受け入れる

『現代文訳 正法眼蔵4』(道元著/石井恭二訳)読みました。

存在することの意味、生きるとは何であるか。
もしくは、仏教ってどんなものか、悟りの境地ってどんなものなのか。
4巻目まで読み通してきた正法眼蔵からは、
それら哲学的、宗教的な答えを、
一つたりとも見つけられなかったぼく。

というか、
難しくてわからなかったぼく。

全5巻シリーズになっているこの現代文訳は、
実はこの4巻で本編が終わってしまいました。
5巻目は、本編にもれたものを集めた拾遺モノと
新しく書き加えられたモノをまとめた本。

なので、ここまでの本編は、
たぶん一般的にいう読書とはいえず、
単に並んでいる文字を眺めていたといってもいいでしょう。

ですが!

この4巻では1カ所だけ、きちんと理解でき、
しかも感動した文章がありました。

それは、藤沢周さんという作家が書いた解説文。

解説といっても本の内容を説明しているわけじゃなく、
自分のことをエッセイみたいに語っている文章です。
もしこれが本の内容を説明しているものだったら、
きっとまたぼくのふにゃふにゃ頭では理解できず、
感動の「か」の字も出てこなかったと思います。

その解説文には、
藤沢さんが幼少のころ、父親に怒られた思い出が記されていました。

きれいな桜を見て
「きれいだな、桜はなんで毎年咲くの」と父親に聞いたら、
「そんなこと疑問に思うんじゃない」と。

前年までは、言葉もおぼつかない幼児だったので、
疑問など言葉にせず、
きれいな桜を、ただそのまま受け入れていた。

それが言葉を覚えたがために、疑問を口にするようになった。
父親は、息子の心が、あるがままを受け入れる姿勢を
無くしてしまったと嘆き、怒ったのだろうと回想していました。

そして、この正法眼蔵の世界は、
言葉を知ってしまった人が、言葉を持ちながらも、
すべてをあるがままに受け入れる方法を
示していると表現していました。

へなちょこ頭のぼくには、
本編を読んでそこまで理解できなかったのですが、
この解説文が言っていることはよくわかりました。

ということで!

5巻を買いに行って、
あるがままを受け入れる方法っていうのを探してみよっと。

現代文訳 正法眼蔵 4 (河出文庫)現代文訳 正法眼蔵 4 (河出文庫)
道元 石井 恭二

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2010年10月28日木曜日

こわいんだろう〜

『パノラマ島綺譚』(江戸川乱歩)読みました。


「お前、怖いんだろう?」
小学生のぼくにオヤジが聞きました。

オヤジの指摘通り、小学生のぼくは怖くて仕方なかった。

何が怖いって、乱歩の小説です。
どの作品だったのかもう忘れてしまったんですが、
小学校の図書室で借りてきた乱歩を読んでいると、
怖くなってきて、誰かが側にいることを
確かめながらでないと読み進められなかった。

だからオヤジやお袋にまとわりつくようにして、
指をなめなめページをめくっていたんです。

ガキがそんなふうにペタリと側にいるのが
わずらわしいと思ったのでしょう。
オヤジは稲川淳二ばりの声で

「こわいんだろう〜」

と繰り返します。

でも、怖くても、その一冊を読み終わるまで止められない。
尻切れトンボじゃ余計怖いですからね。

そんなオヤジの脅しがあったせいなのか、
小学生のぼくは、その一冊だけで、
乱歩は読まなくなってしました。


そして何十年も経ってから、やっとまた乱歩。
いやいや面白かったです。
色あせないですね、さすがです。

でもね。
でも、なぜか他の作品を続けて読む気にならないんです。
ぼくのスイートスポットにはハマらない感じです。
面白いと思うのに。

「こわいんだろう〜」の声はもう聞こえないんですけどね。
不思議です。


パノラマ島綺譚  江戸川乱歩ベストセレクション(6) (角川ホラー文庫)パノラマ島綺譚 江戸川乱歩ベストセレクション(6) (角川ホラー文庫)
江戸川 乱歩

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2010年10月26日火曜日

勝手に動いて欲しかった。

『花散らしの雨』(髙田郁)読みました。

ぼくは、ときどき、お遊びで小説なんかを書いたりします。
そのとき、とってもの面白いのが、
登場人物たちが勝手に動いちゃうこと。

自分が思いもしなかった展開にどんどん進んで行っちゃうんです。

そうなると、ぼくは書いているんだけど、
一読者としてぺこぺこ入力されていく文字を
リアルタイムで読んでいる感じになります。

えっ次はどうなる? なんてわくわくしながら。


で、この『花散らしの雨』。シリーズ2作目です。

1作目はまさしく登場人物が物語りをつくっているようで、
わくわくうるうるの傑作でした。

でも、この2作目は、
登場人物に振り回されずに作者が物語をつくっていた。
ぼくにはそう読めてしまいました。

ちょい残念。

でも、嫌いじゃないです。このトーン。

シリーズは続いているようなので、3作目に期待です。



花散らしの雨 みをつくし料理帖花散らしの雨 みをつくし料理帖
高田 郁

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2010年10月21日木曜日

大きくなるまで我慢

『多読術』(松岡正剛)読みました。

たぶんぼくの器の大きさを反映しているのだと思いますが、
ぼくの事務所も自宅のぼくが使える場所も、こじんまりしてます。
えーつまり、狭いってことです。

ということは必然的に
必要最低限のモノしか置いておくことはできません。
必要最低限じゃないモノといえば、
ぼくの場合すぐ思いつくのが読み終わった本です。

ぼくの器がもっと大きくて、それに比例して
使える場所が大きければ、それらの本もちゃんと整理して
保存しておくことができるのですが、いかんせん。

この状態に対応するため、ぼくは読み終わった本を
ブックオフ送りにする方法をとっています。

ブックオフ送りにするためには、
読んでいるとき、
本をなるべく汚さないようにしなくてはなりません。

書き込みなんてもってのほか。

ブックオフのサイトによると、
書き込みのある本は受け付けてくれないそうです。


で、この松岡正剛さんの『多読術』。

内容をきちんと理解し、自分のものにするために、
本の中にどんどん書き込みましょうってことを薦めてます。

うん、そうだよね。ぼくも経験あります。
そうしたほうが理解が進む。
プリントアウトした資料なんか、
ぐちゃぐちゃにイタズラ書きしながら読むほうが、頭に残るもの。

大納得! でも……。

現在の物理的事情は、
すぐになんとかできるものではありません。

とりあえず、器が大きくなるように、
たくさん本を読むようにしよっと。
で、大きくなるまでは、ちと我慢して、汚さないように読もっと。


多読術 (ちくまプリマー新書)多読術 (ちくまプリマー新書)
松岡 正剛

筑摩書房 2009-04-08
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2010年10月18日月曜日

妥協しそうになったらこの本

『面白くて眠れなくなる数学』(桜井進)読みました。

本をつくることを職業にしているので、
他の人の作品にケチをつけるようなことはしたくないです。
歴史に残るようなすごい作品をつくったワケでもないですから。
ケチつけられるほど偉くないですから。

なので、名前は伏せますが、
過去にうんざりして離れしてしまった作家さんが何人かいます。

主人公のキャラクターが気に入って、
シリーズで続々と出てくる新刊は必ず購入し、
わくわくしながら読んでいた作家さん。
でも、その新刊が何冊か続けて、
「これって、とってもやっつけ仕事」と感じてしまい、
もうそれ以降は触手が動かない。

別の好きだった作家さんも、
たった1冊で次の本を買うのを止めてしまったことがありました。

たぶん、ぼくと同じように、
お客さんってとっても冷酷です。

だから、ぼくも気をつけなければって思います。
ちょっとでも気を抜いた作品をつくったらその時点で、
次はなくなるんですからね。

で、この本。
そんなことを思い出させてくれる貴重な本です。
ぼくにとっての反面教師。

本をつくっているとき、
妥協しそうになったらこの本を読み返すといいぞ、きっと。


面白くて眠れなくなる数学面白くて眠れなくなる数学
桜井 進

PHP研究所 2010-07-17
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2010年10月14日木曜日

研究したいのに読めない。

『八朔の雪』(髙田郁)読みました。

村上春樹さんとか、京極夏彦さんとか、森見登美彦さんとか、
物語の内容はさておいて、
文章に目を通しているだけで
気持ちよくなってくる作家さんが何人かいます。
もちろん、ぼくにとっては、ですけどね。

そういう人たちの作品を読んでいると、
ぼくもその文体をぜひ自分のものにしたいと思って、
言葉の選び方とか、一文の長さとか、その長さ短さのリズムとか、
語尾にくる文字の使い方とかを研究しながら、
注意深く読もうと思ったりするんです。読んでいる途中でね。

でも、ダメなんです。

読み続けていくと「あー気持ちいいな」って思ってきて、
その気持ちよさに気持ちをゆだねちゃう。
研究どころじゃなくなってくるんです。

さて、さてこの本。
気持ちいい文章です。いい!

で、そうなると、
いつものクセで途中で研究心がわいてきます。
そして、いつものごとく研究心が途中で挫折する。

でも!

この本は冒頭にあげた作家さんの作品のように、
気持ちよさに気持ちが一杯になって研究心が挫折するのとは、
ちょっと違いました。

読めないんです。
読めなくて研究できないんです。

知らぬ間に涙が続々と出てきて、文字がうまく読めない。
つまり泣いちゃうんです、この本。

登場人物のみんながやさしい。そのやさしさに泣いちゃうんです。
だから研究どころじゃない。

今年読んだ本の中のベストテン入り確定です。


八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)
高田 郁

角川春樹事務所 2009-05
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2010年10月12日火曜日

理解できないトコが面白い

『現代文訳 正法眼蔵3』(道元著/石井恭二訳)読みました。

ずっと前から疑問に思っていたこと。
宗教って、
みんなが幸せになる方法を教えてくれるものだといわれてるのに
(いわれてるでしょ。そう思っているのぼくだけかな。
まあ、いいやぼくの独りよがりの誤解でも)、
みんな安らかに生きましょうって教えてくれるものなのに、
その信仰がもとで、
戦争とか争いごとが起きるのってなんでだろう。

その答えみたいなモノがちょっとだけ、
この本を読んで見えた気がしました。

だってすごいんですよ、道元さん。
もしかしたら現代語に訳しているからかもしれないんですが、
違う考え方をしているヤツをけちょんけちょんに貶すけなす。

そんな考え方するヤツは人間ではなく畜生だとかね。

そんなふうにいわれたら、やっぱケンカになっちゃうでしょ。
文書に書いているだけで、
面と向かってはそんなこと言わないかもしれないけど、
言われている当人が読んだら、気分は悪くなるだろうな……。

とはいえ、ぼくが理解できたのはそんな人をけなしている部分などを
含めた全体の約5分の1くらい。あとはやっぱよくわかりません。

でもね。
3巻目まできて、わかってきたことが1つ。
すんなり理解できる部分はあまり興味が持てず、
理解できない部分が面白いってこと。

なんじゃそりゃって気がしますが、
全5巻なのであと2巻。がんばります。

現代文訳 正法眼蔵 3 (河出文庫)現代文訳 正法眼蔵 3 (河出文庫)
道元 石井 恭二

河出書房新社 2004-09-04
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2010年10月8日金曜日

熱狂と虚脱

『同日同刻』(山田風太郎)読みました。

読んだ本の感想を書くような体裁になっていながら、
なんだか自分ことばかり話してる。

わかってるんですけどね。

でも本の内容紹介だったら、
今はネットで一瞬で表示できちゃうので、
わざわざぼくがやることもないかなって思い、
今回もぼくの高校時代の昔話をちらっと。

高校生のとき部活はバドミントンをやってました。
その3年間の中で、一番熱狂した試合があったんですが、
それ、じつは自分が出た試合じゃなかったんです。

1つ上の先輩たちの引退試合。
その試合に勝ったら、ベスト4とかにいけそうな位置。
でも相手は強くて、歯が立たなかったんです。

それでも先輩たちは、
あと1点取られたら終わりってときに、
あきらめずに頑張った。

なんと十数点連取して追いついちゃったんです。
それでも結局負けちゃったんですけどね。

このときです。ぼくが熱かったのは。

自分でも驚くくらいでかい声を張り上げて声援をおくり、
真っ赤になるほど手を叩いて!

で、最後の1点を取られたとき
──虚脱、キョダツ、きょだつ……でした。

あと1点で終わりってギリギリのとき、
必死にもがいている先輩がそのモガキもむなしく
破れてしまった状況。
それを自分のことのように応援し、
自分のことのように虚脱した状況。

この本を読んで思い出したのは、その状況でした。

この本が教えてくれるのは、
終戦のときの日本の指導部のドラマなので、
ぼくの思い出した状況とはまったく次元は違います。

でも出てくる人たちの熱さが、
幼稚な経験しかないぼくの熱狂した昔を
頭によぎらせたんです。

不謹慎かもしれないんですが、
この本、すごく面白かったです。

同日同刻―太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日 (ちくま文庫)同日同刻―太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日 (ちくま文庫)
山田 風太郎

筑摩書房 2006-08
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2010年9月30日木曜日

初々しさの欠落

『嘔吐』(サルトル著/鈴木道彦訳)読みました。

ぼくは「異邦らくだ」ってハンドルネームを使っています。
「異邦」は、カミュの『異邦人』が好きで、影響を受けてつけたもの。
「らくだ」は高校時代につけられたあだ名です。

カミュの『異邦人』を最初に読んだのは、
たぶん20代で、すごい衝撃でした。

答えがわかならいってことは知っている、
知っているけどそれでも答えを探す……みたいな思想なんだろうと
勝手に解釈して、一人感動してたんです。

そんな勝手な解釈でも何でもいいので、
もう一回あの感動が得られたら嬉しいなと
期待して読んだのがこの『嘔吐』。

でも、結果は惨敗でした。

面白く読めなかったんです。
「答えなんかない、ただ偶然、存在してるだけなんだ」って感じの思想は
なんとなくつかめたんですが、
そこからは『異邦人』のときみたいな感動は出てこなかった。

これってやっぱり、ぼくの読み方が浅かったのと、
読者としての若さとか初々しさとかが
欠けていたせいなんだと思っちゃいました。反省。



嘔吐 新訳嘔吐 新訳
J‐P・サルトル 鈴木 道彦

人文書院 2010-07-20
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まだら的。

『インシテミル』(米澤穂信)読みました。

本をつくる仕事をしているとき、
ぼくはいろんな方面から出る要望に関して、
基本的にすべて受け入れ、
作品に反映させるようにしています。

出版社の人が「ここにはこんな内容を入れて欲しい」といえば、
「はい喜んで」と従い、
校正さんが「この文章は少し違和感あります」って朱字を入れたら、
「ご指摘ありがとうございます」とサクサク直します。

そりゃあ、絶対勘違いしている指摘もあるので、
そんなときは、丁重に説明して理解してもらいますけど、
基本は全部受け入れです。

人にみてもらうモノをつくっているんですから、
自分がヘンだと感じなくても、誰かがヘンだと感じるのだったら、
そこには何らかのミスなり浅はかさなりがあるって思うからです。

でもね。
そうやって全部受け入れてつくっていくと、
なんだか全体にまとまりがないというか、まだらになっちゃうというか、
部分的にはヘンが直っても、一冊の本としてみたときに、
ヘンになるってことがあるんです。

だから木を直すときは、
森も見ながら直さないとダメなんですね。

わかりやすく極端な例をあげるとすれば、
章のタイトルを直したのに、
目次にある章タイトルを直し忘れるという感じ。

で、この本。

前半にかなり、まだら的と思っちゃった部分がありました。
修正作業をした上のまだらではなく、
天然のまだらってこともあり得えます。

とはいえ、
そんなこと気にしなくても、
すすっと読めるエンタメ作品。楽しむことができました。

インシテミル (文春文庫)インシテミル (文春文庫)
米澤 穂信

文藝春秋 2010-06-10
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2010年9月27日月曜日

無法って、無法?

『現代語訳 武士道』(新渡戸稲造著/山本博文訳)読みました。


「私は新しい法律ができる度に、とても悲しくなります」

これは、これまでの人生の中でも
結構な衝撃力を持って、ぼくにドカンと響いた言葉。

発言者は、自動車免許教習所の教官さん。
場所は、知り合いなどまったくいない教習所の教室。
授業に出ないと免許がとれないので、
誰もが仕方なしに出席するような学科教習の時間でした。

ぼくも、仕方ねーなーと心の中でつぶやきながら
半分眠りつつ話を聞いていました。
よって、この発言をした先生の名前さえ知らないんです。

交通法規ってのは毎年のように改正があるらしく、
その度に新たなルールが追加になる。
そしてその度にこの教官先生は悲しむ。

 
先生いわく
「本当は、人に迷惑をかけないように運転しましょう
ってルールだけでいいはずです。
それなのに、そんな簡単なルールを守らない人が大勢いるから、
どんどん法律が細分化されていく。
あなたたちが勉強しなくてはならいことがどんどん増えていくんです」

半分眠りつつ聞いていたこの言葉が、
なぜか免許を取ったあとに思い出され、
で、よく考えてみると、
これって交通法規だけじゃく、
法律全部にいえることじゃないの! と思い当たる。

 うーん、深い。

で、武士道。
この本によると、
「武士道とはこれこれこういうことである」と
きちんと明文化したものはないとのこと。

ぼくなりに解釈すれば、
サムライが持つまっすぐな心がルールだったんですね。
法律がまったくない社会って、
「無法」という言葉のイメージとはまったく正反対の、
すごく成熟した場所なんじゃないかな。


現代語訳 武士道 (ちくま新書)現代語訳 武士道 (ちくま新書)
新渡戸 稲造 山本 博文

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2010年9月21日火曜日

理解できちゃうかもしれない。

『現代文訳 正法眼蔵2』(道元著/石井恭二訳)読みました。

日本経済新聞2020年9月18日付の「私の履歴書」からの引用します。
哲学者の木田元さんが大学進学の理由を記した内容です。

「(ドイツの哲学者ハイデガーの『存在と時間』について)
 読もうとしてもさっぱり分からない。
(中略)だが、何か重要なことが書かれていることは分かる。
これは大学の哲学科に入って専門書を読む専門的訓練を
受けなければ読めない本だ(以下略)」

えーと……
ぼくのつたない知識で申し訳ないのですが、
この正法眼蔵は仏教の教えを説いてはいるのですが、
一方で日本最高の哲学書ともいわれているようです。

哲学者の「私の履歴書」を引用したのは、
この哲学つながりがあったから。

何がいいたいかというと、
ぼくにもまったくわからなかったってこと。

だって、
「言葉ってすごく重要だ」みたいなことが書いてあって、
そのあとに
「言葉を発しないことは言葉を云い得ることの真骨頂である」
って結ばれちゃう。

話をしないことが、話すことの本当の姿だっていわれても、
「えっ、ちょっと待って」ってなっちゃうじゃないですか。

自分の理解力のなさに笑っちゃうような感じだったのが、
木田元さんの「私の履歴書」を読んで、少しほっとしたところです。

でも、これ全5巻のうちのまだ2巻目。
もしかしたら3巻目以降は、すすっと理解できちゃうかもしれない。
もしそうだったら、いいじゃないですか。

3巻目、挑戦しちゃいます。


現代文訳 正法眼蔵 2 (河出文庫)現代文訳 正法眼蔵 2 (河出文庫)
道元 石井 恭二

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2010年9月20日月曜日

仲良し大好き

『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(広瀬隆)読みました。

仕事で環境問題に関する記事なんかを書いているので、
こういった本にも触れておかなきゃいけないなと思い読んでみました。

環境問題に関する記事を書いているといっても、
ぼく自身は専門知識をたくさん持っている人ではないので、
記事の中に自分の意見は書きません。

誰か(主に公共団体)の発表とか報告とかをもとに、
「こんな人がこんなことを報告しました」と書くだけです。
「〝人間の活動によって排出される二酸化炭素の増加で
地球が温暖化していく〟と国連が発表しました」みたいな感じ。

記事を載せるのは環境問題ばかり扱う媒体なので、
この二酸化炭素温暖化のことは、何度も何度も書きました。

でも、この本のタイトルだと、
それが「崩壊」しちゃってるらしい。
そういうことなら、
その「崩壊してるじゃないか」って意見も知っておいて、
その上で記事を書いたほうが、
なんとなく深みが出るだろうと
殊勝なことを考えたんですね、ぼくでも。

で、読み終えて。

いろんな見方や考え方があるんだなってことがわかりました。

温暖化が間違っているって人もいるし、正しいって人もいる。
世の中のほとんどの物事と同じです。

で、ぼくは「こんな人がこんなことを発表しました」的な情報を伝える人。
自分の中で意見を持ったとしても、
それを記事には表しません。判断するのはあくまで読んだ人です。

あっ、それとこの本、
ぼくは少し引いちゃうトコがありました。
著者の人が結構強い調子でいろんな人を批判しているんです。
ケンカが嫌いで仲良しが大好きなぼくは、
そんな文章を読むと、
もういいから止めようよって気分になってきちゃいます。


二酸化炭素温暖化説の崩壊 (集英社新書)二酸化炭素温暖化説の崩壊 (集英社新書)
広瀬 隆

集英社 2010-07-16
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2010年9月17日金曜日

ゲラは1割カット

『虐殺器官』(伊藤計劃)読みました。

スティーブン・キングの著作に、
作家になるまでの道とか自分が小説をつくるにあたって
気をつけていることなんかを記した
『小説作法』って本があります。

この中でキングは、
ゲラ刷り(原稿を本の体裁に合わせてページに組み込んだもの)を
チェックするときの心掛けとして、
「文章の1割を削るのがいい」みたいなことを言っています。

ぼくも遊び半分に
小説みたいなものを書いたりするんですが、
自分の書いたモノをあとから読み直してみると
「いやいや足りないな」と思って、
読み直すたびに、どんどん書き足しちゃうんです。

キングとはまったく逆
……だからベストセラー作家になれないんですね。
あっ、じゃァ、逆やれば、ベストセラー書けるんだ!

で、この作品。
キングの教えみたいに削ってくれたら、
ぼくはきっと、ドスンっと音が聞こえるくらいに
頭の中に落ちてきた作品になったと思います。

そして、
ちょっと前に読んだ同じ作者の『ハーモニー』って作品が、
「あっ、アレってきっと、削られてつくられたんだ」
と感じているところです。


虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
伊藤 計劃

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2010年9月13日月曜日

アンバランス棒の綱渡り

『マルドゥック・スクランブル
──The Third Exhaust 排気』(冲方丁)読みました。

2巻目の途中で飛んで行っちゃったと思われた舞台は、
3巻目の後半で元に戻ってきました。

この舞台転換は、アクロバット的です。とっても危ういバランス。

サーカスの綱渡りの人は、
長いバランス棒を持って一本のロープを渡っていきますが、
あの棒はやっぱりバランスをとるためにあるんですよね。

そこでもし、そのバランス棒の片側だけにたくさん重りをつけて、
到底釣り合わないようなアンバランス棒にしちゃった場合、
綱渡りの人は困るでしょうね。

そんなもの持ってロープを渡りきるのは、とっても難しい。
でも、見ている人は、
そもそも綱渡りの行為自体にハラハラしているのであって、
バランス棒がいくらアンバランスでもそんなにすごいこととは思えない。

まあ、それでもきちんと渡りきれば、
すごいすごいと拍手を送るんですけどね。

で、この本、
アンバランス棒を持ってロープを渡りきっちゃった感じでした。拍手!

マルドゥック・スクランブル―The Third Exhaust 排気 (ハヤカワ文庫JA)マルドゥック・スクランブル―The Third Exhaust 排気 (ハヤカワ文庫JA)
冲方 丁

早川書房 2003-07
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2010年9月9日木曜日

天丼と小説

『西巷説百物語』(京極夏彦)読みました。

東京の神保町に「いもや」ってお店があります。
みなさんご存じかもしれないですが、一種のチェーン店で、
そう離れていない場所に4〜5店ほどあり、
いずれも天ぷらやとんかつなどの揚げ物を
食べさせてくれるところです。

ぼくはその中でも
白山通り沿いにある天丼のお店がお気に入りで、
しょっちゅう利用させてもらっています。

初めて行ったのは水道橋にある予備校に通っていた時代。
だからもう20、30年前です。
いついっても、
同じ職人さんが、同じ動きで天丼を次々につくっていく。

カウンターしかない店なので、スグ目の前で職人技を堪能できます。

美味しくて値段も手ごろなのはもちろんなんですが、
ぼくがその店を気に入っていたのはその職人さんの動きにもあったんです。

小刻みに上下に少し揺れながら、
人数分のネタに衣をまぶし、
油の中にひょいひょいと滑らせながら入れていく。

その動作はたぶん1センチの違いもないほど毎回同じ。
たぶん小刻みに揺れる上下の幅も毎回同じ。
雨の日も雪の日も、かんかん照りの日も同じ。

注文する以外、1度も話したことはありませんが、
この人すげーって思っていました。

その後、予備校の勉強も無駄に終わって、
横浜の映画学校に行き、あちこちぶらぶらしていたこともあり、
10年くらいは「いもや」に足を運ばない時期がありました。

で、何かの用事で10年ぶりくらいに行ってみると
──いたんですね、その職人さん。

しかもぼくが覚えている動きとまったく同じ。
びっくりでした。
(今はその職人さんも引退してしまったのか、
 若い人に変わってしまいましたけどね)


……で、
京極さんのこの本。職人技でした。


西巷説百物語 (怪BOOKS)西巷説百物語 (怪BOOKS)
京極 夏彦

角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-07-24
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2010年9月6日月曜日

エッチ記事と冠婚葬祭マナー

『マルドゥック・スクランブル
—The Second Combustion 燃焼』(冲方丁)読みました。

スケジュールとかの条件さえ合えば、
どんなジャンルの本づくりでも請けてしまう節操のないぼく。

だって、どんなジャンルでも、本をつくるのって楽しいんですもの。
今はやらなくなったけど、
アダルト系の仕事(エッチサイトの紹介記事とか)も
かつてはやったことあります。

でもそんなふうに仕事をしていると、
とてもヘンテコな状況になることがあります。
それはいつくかの仕事を掛け持ちでやるとき。

例えば、今いったエッチサイトの紹介記事と
冠婚葬祭のマナー集みたいな本を同時に進行するようなとき。

同時進行で仕事が進んでいるとき、
ぼくは「ここまで終わったら、次はこっち」というように
順番に少しずつこなしていきます。

「あっはん、うっふん。このサイトええでぇー」
みたない文体で文章を書いたあと、
「お葬式には、遺族の気持ちを考慮して
派手なアクセサリーなどの着用は控えます」
なんて真面目なですます調に切り替え。

そんな作業を繰り返していると、
だんだん「ぼくは誰なんだろう」と哲学的な疑問で
頭がいっぱいになってきます。

で、このマルドックの2巻目。

前半と後半では、登場人物たちがあれやこれやする舞台が、
まったく違っちゃいます。
もちろん、各キャラの性格とか状況設定が変わってくるわけじゃなく、
話としてはつながってはいるのですが、
ぼくとしては、エッチサイトの紹介記事と冠婚葬祭マナー本の
違いと同じくらいジャンルが飛んじゃってる気がしました。

で、この本まだ3巻目があります。未読です。
このあとも、舞台が飛んじゃうのかな……。

ある意味、楽しみです。

マルドゥック・スクランブル―The Second Combustion 燃焼 (ハヤカワ文庫JA)マルドゥック・スクランブル―The Second Combustion 燃焼 (ハヤカワ文庫JA)
冲方 丁

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2010年8月31日火曜日

石炭をば早や積み果てつ。

『遠野物語 付・遠野物語拾遺』(柳田国男)を読みました。

石炭をば早や積み果てつ。
中等室の卓のほとりはいと靜にて、
熾熱燈の光の晴れがましきも徒なり。

……はい、正解です。
森鴎外の『舞姫』の冒頭ですね。

今もあるかどうかは定かじゃないんですが、
ぼくのときは、高校の現代国語の教科書に載っていました。

さて話はその高校時代です。
ぼくの人生の中で、一番勉強しなかったのが、この高校時代。
授業の復習はもちろん、予習もやった覚えがありません。

あろうことか、そんなヤツに!

森鴎外が大好きだという現代国語の先生は、
「今日から、最も優れた日本文学といわれている『舞姫』だ。
予習はしているだろうが、そんなんじゃ足りないってこと、
よく教えてやるからな。
それじゃあ、えーとお前、最初から読んでみろ」
とおっしゃった!

ぼくは、最高の日本文学だろうが何だろうが、
日本語なんだから、びびることはないだろうと、
元気よく返事をして立ち上がり、
ぴかぴかの教科書を開き読み始めました。

「まいひめ!

せきたんを、ば、そうや……

  ……えっ

せきたん、を、ば、はやせき……

  ……あれっ?

いし、すみを、そうや、つみか……

  ……んっ?

せき、すみ、をばそう、やつみ……」


「ばかやろう!」

石炭をば早や積み果てつ。
ぼくは、この一文を10パターンほど
独自の文節に区切って読んだのです。

日本語だからびびる必要はなくても、
文語体なのでびびらなくてはいけなかったのです。
なんでこれが現代国語?

今では、この現国の先生のお陰で、
舞姫冒頭の一文は暗唱し、森鴎外も好きな作家になっています。

で、『遠野物語』。
後半の「遠野物語拾遺」や解説などは口語体ですが、
メインの本体は、なんと文語体。
初版からちょうど100年経つ本なので、まあそうですよね。

でも! すんなり読めちゃいました。
独自の文節区切り読みになることもなく、
すすっと理解できちゃったんです。

うーん。これも現国の先生のおかげかな。

また内容に触れずにこんなに書いてしまいました。
感想といえば、「なんでみんなこの本をありがたがるかなぁ」
それがわからなかかったです。

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)
柳田 国男

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2010年8月27日金曜日

七味をかける前の状態。

『砂漠の惑星』(スタニスワフ・レム)読みました。

ぼくがやっている本をつくる仕事の中に
レイアウトの作業があります。

テキストと写真の位置を、
こんなもんかな、などといいながら配置したり、
イラストの大きさを調整したり、
○とか□とか飾りの罫線とかを加えたりして、
読みやすくカッコイイ見栄えにする作業です。

たいていは、最初に手書きのラフをつくっておいて、
それに合うようにパソコンで各素材を組み合わせて仕上げます。
ぼくの場合は原寸のラフをつくっているので、
このパソコンの組み合わせ作業が終われば、
「よしできた!いいんじゃない」と、
作業していたページが組み上がります。

でも、そのときに、
「いいんじゃない……けどなぁ」と
「……けどなぁ」の言葉が出てきてしまうことがあるんです。

そんなとき、何かの拍子に
「この右端を揃えている写真の位置を、
少しずらして段々にするといいかも」
なんて思いついたりします。

で、その通りやってみると、
「わっ、これカッコイイ! それに読みやすい!」ってなるんです。
……まぁ、そんなにうまくいくことは、まれですけどね。

身近な例にたとえると、
美味しいモノ食べて「うん、うまい」と一度はうなったのに、
何気なくテーブルの隅にあった七味をかけてみたくなり、
やってみると、
「すっごい美味しい!」って感動しちゃうような感じです。

さて、この『砂漠の惑星』。
ぼくのレイアウト作業のときの
「……けどなぁ」の言葉が出てしまう状態。
七味をかける前の状態。
……ぼくにとっては、そんな作品でした。

悪くないんですけどね。
……この前読んだ『ソラリスの陽のもとに』が
良すぎて期待しすぎちゃったかも。

砂漠の惑星砂漠の惑星
スタニスワフ レム Stanislaw Lem

早川書房 2006-06
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2010年8月19日木曜日

ホントのことってホント?

『インディヴィジュアル・プロジェクション』(阿部和重)読みました。

ぼくが日本映画学校の
卒業生だってことは前にも書きました。
そうです。作者の阿部和重さんと同じです。
まったく面識はありませんが……。

さて、
その映画学校を卒業したすぐあとくらいの時期でした。
仲間の一人から、夜中に電話があったんです。
(以下、個人情報的にあれなので、仮名にしています)

「お前、カヤマのうちの近くだろ、
ちょっと様子見に行ってくれよ。
さっき電話で話したら、なんだか落ち込んでるみたいで、
今にも屋上から飛び降りるって感じでさ」

それを聞いたぼくは、
もちろん急いで駆けつけようと思ったのですが、
でもなんだか一人で行くのは怖くて、
近所に住んでいたイノウエという同じ仲間に電話して、
そいつをクルマで拾って助手席に乗せ、
二人でカヤマの家に行きました。

行ってみると、
カヤマが落ち込んでいたのはたしかですが、
ぼくらと話しているうちに次第に落ち着いてきて、
最後には笑顔も戻り、ぼくらも安心して帰っていきました。
ようするに、ちょっと寂しかっただけってことでした。

それから10年、いや15年後くらいたっていたでしょうか。

カヤマとイノウエと飲む機会があったんです。
昔話に花が咲き、飛び降り未遂事件にも話がおよびました。
するとイノウエはぼくに向かって、

「お前はすごいよ。無茶だけど友だち思いっていうかさ。
信号待ちしてる俺の横をブレーキもかけずにすり抜けて、
すっ飛んでいったからな」
と、笑いながら話すのです。

そう、イノウエとぼくでは、
微妙な部分で記憶が違っていたのです。

イノウエは、
ぼくから電話をもらったあと、自分のクルマで駆けつけ、
赤信号で止まっているとき、ぼくが追い抜いたと。

そしてぼくは、
ぼくのクルマの助手席にイノウエを乗せていったと。

それぞれの情景は、二人とも鮮明に思い浮かべられるんです。

だから二人とも、「そうじゃないよ、違うよ」を繰り返し、
結局、どっちが真実なのか、未だに判明していません。

きっと、どっちもが本当だったんでしょうね。

ということで、
この『インディヴィジュアル・プロジェクション』。
ぼくの記憶とイノウエの記憶とが重なり合ったり合わなかったりで、
ワケわからないのと同じように、
ぼくにとって、とってもワケのわからない小説でした。

ちなみに仮名にした名前は、
この小説の登場人物の名前を拝借しました。あしからず。

インディヴィジュアル・プロジェクション (新潮文庫)インディヴィジュアル・プロジェクション (新潮文庫)
阿部 和重

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2010年8月18日水曜日

順番は、池波→司馬でいきなさい。

『鬼平犯科帳3』(池波正太郎)読みました。

今から十数年前のことです。
とっても威張り屋さんの社長とお話したことがありました。

その社長は
「お前は読書量が足りないからダメなんだ」みたいなことを言って、
読むなら現代小説じゃなく、
時代小説や歴史物を読めとさとしてくれました。

そして「時代物で、読んだ本はあるか?」と聞いてきたので、
ぼくは、司馬遼太郎さんを少しと答えました。

すると、
「少しじゃダメだぞ、何を読んだ?」
「えーと、『龍馬がゆく』とか『項羽と劉邦』とか、
あっ『人斬り以蔵』も面白かったです」

「池波先生はどうだ?」
「池波……? あっ、すみません一冊も……」

「それは逆だろ! 池波先生から入って、
司馬遼太郎にいくべきだろ? 違うか?」
「はい……すみません」

「ワシは、まだ司馬遼太郎まではいってない
池波先生が途中だからな」

今年に入ってようやく1月のはじめに、
池波先生の鬼平シリーズ1巻目に触れたぼく。

10年以上の時を経て、威張り屋さんの社長のいうことを聞き、
さらに半年以上かかってやっと3巻目を読んだってことです。

なるほど、池波作品は娯楽色が強く、
司馬作品も娯楽色はあるのですが、
イメージ的に歴史のお勉強モードが入っている。
だからあの社長は読む順番はコレだと考えていたのでしょうね。

まだ3巻しか読んでないけど、
鬼平シリーズは巻が進むに従い、
エンタメ性が濃くなっていくような気がします。

鬼平犯科帳〈3〉 (文春文庫)鬼平犯科帳〈3〉 (文春文庫)
池波 正太郎

文藝春秋 2000-04
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