2010年10月28日木曜日

こわいんだろう〜

『パノラマ島綺譚』(江戸川乱歩)読みました。


「お前、怖いんだろう?」
小学生のぼくにオヤジが聞きました。

オヤジの指摘通り、小学生のぼくは怖くて仕方なかった。

何が怖いって、乱歩の小説です。
どの作品だったのかもう忘れてしまったんですが、
小学校の図書室で借りてきた乱歩を読んでいると、
怖くなってきて、誰かが側にいることを
確かめながらでないと読み進められなかった。

だからオヤジやお袋にまとわりつくようにして、
指をなめなめページをめくっていたんです。

ガキがそんなふうにペタリと側にいるのが
わずらわしいと思ったのでしょう。
オヤジは稲川淳二ばりの声で

「こわいんだろう〜」

と繰り返します。

でも、怖くても、その一冊を読み終わるまで止められない。
尻切れトンボじゃ余計怖いですからね。

そんなオヤジの脅しがあったせいなのか、
小学生のぼくは、その一冊だけで、
乱歩は読まなくなってしました。


そして何十年も経ってから、やっとまた乱歩。
いやいや面白かったです。
色あせないですね、さすがです。

でもね。
でも、なぜか他の作品を続けて読む気にならないんです。
ぼくのスイートスポットにはハマらない感じです。
面白いと思うのに。

「こわいんだろう〜」の声はもう聞こえないんですけどね。
不思議です。


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2010年10月26日火曜日

勝手に動いて欲しかった。

『花散らしの雨』(髙田郁)読みました。

ぼくは、ときどき、お遊びで小説なんかを書いたりします。
そのとき、とってもの面白いのが、
登場人物たちが勝手に動いちゃうこと。

自分が思いもしなかった展開にどんどん進んで行っちゃうんです。

そうなると、ぼくは書いているんだけど、
一読者としてぺこぺこ入力されていく文字を
リアルタイムで読んでいる感じになります。

えっ次はどうなる? なんてわくわくしながら。


で、この『花散らしの雨』。シリーズ2作目です。

1作目はまさしく登場人物が物語りをつくっているようで、
わくわくうるうるの傑作でした。

でも、この2作目は、
登場人物に振り回されずに作者が物語をつくっていた。
ぼくにはそう読めてしまいました。

ちょい残念。

でも、嫌いじゃないです。このトーン。

シリーズは続いているようなので、3作目に期待です。



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2010年10月21日木曜日

大きくなるまで我慢

『多読術』(松岡正剛)読みました。

たぶんぼくの器の大きさを反映しているのだと思いますが、
ぼくの事務所も自宅のぼくが使える場所も、こじんまりしてます。
えーつまり、狭いってことです。

ということは必然的に
必要最低限のモノしか置いておくことはできません。
必要最低限じゃないモノといえば、
ぼくの場合すぐ思いつくのが読み終わった本です。

ぼくの器がもっと大きくて、それに比例して
使える場所が大きければ、それらの本もちゃんと整理して
保存しておくことができるのですが、いかんせん。

この状態に対応するため、ぼくは読み終わった本を
ブックオフ送りにする方法をとっています。

ブックオフ送りにするためには、
読んでいるとき、
本をなるべく汚さないようにしなくてはなりません。

書き込みなんてもってのほか。

ブックオフのサイトによると、
書き込みのある本は受け付けてくれないそうです。


で、この松岡正剛さんの『多読術』。

内容をきちんと理解し、自分のものにするために、
本の中にどんどん書き込みましょうってことを薦めてます。

うん、そうだよね。ぼくも経験あります。
そうしたほうが理解が進む。
プリントアウトした資料なんか、
ぐちゃぐちゃにイタズラ書きしながら読むほうが、頭に残るもの。

大納得! でも……。

現在の物理的事情は、
すぐになんとかできるものではありません。

とりあえず、器が大きくなるように、
たくさん本を読むようにしよっと。
で、大きくなるまでは、ちと我慢して、汚さないように読もっと。


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2010年10月18日月曜日

妥協しそうになったらこの本

『面白くて眠れなくなる数学』(桜井進)読みました。

本をつくることを職業にしているので、
他の人の作品にケチをつけるようなことはしたくないです。
歴史に残るようなすごい作品をつくったワケでもないですから。
ケチつけられるほど偉くないですから。

なので、名前は伏せますが、
過去にうんざりして離れしてしまった作家さんが何人かいます。

主人公のキャラクターが気に入って、
シリーズで続々と出てくる新刊は必ず購入し、
わくわくしながら読んでいた作家さん。
でも、その新刊が何冊か続けて、
「これって、とってもやっつけ仕事」と感じてしまい、
もうそれ以降は触手が動かない。

別の好きだった作家さんも、
たった1冊で次の本を買うのを止めてしまったことがありました。

たぶん、ぼくと同じように、
お客さんってとっても冷酷です。

だから、ぼくも気をつけなければって思います。
ちょっとでも気を抜いた作品をつくったらその時点で、
次はなくなるんですからね。

で、この本。
そんなことを思い出させてくれる貴重な本です。
ぼくにとっての反面教師。

本をつくっているとき、
妥協しそうになったらこの本を読み返すといいぞ、きっと。


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2010年10月14日木曜日

研究したいのに読めない。

『八朔の雪』(髙田郁)読みました。

村上春樹さんとか、京極夏彦さんとか、森見登美彦さんとか、
物語の内容はさておいて、
文章に目を通しているだけで
気持ちよくなってくる作家さんが何人かいます。
もちろん、ぼくにとっては、ですけどね。

そういう人たちの作品を読んでいると、
ぼくもその文体をぜひ自分のものにしたいと思って、
言葉の選び方とか、一文の長さとか、その長さ短さのリズムとか、
語尾にくる文字の使い方とかを研究しながら、
注意深く読もうと思ったりするんです。読んでいる途中でね。

でも、ダメなんです。

読み続けていくと「あー気持ちいいな」って思ってきて、
その気持ちよさに気持ちをゆだねちゃう。
研究どころじゃなくなってくるんです。

さて、さてこの本。
気持ちいい文章です。いい!

で、そうなると、
いつものクセで途中で研究心がわいてきます。
そして、いつものごとく研究心が途中で挫折する。

でも!

この本は冒頭にあげた作家さんの作品のように、
気持ちよさに気持ちが一杯になって研究心が挫折するのとは、
ちょっと違いました。

読めないんです。
読めなくて研究できないんです。

知らぬ間に涙が続々と出てきて、文字がうまく読めない。
つまり泣いちゃうんです、この本。

登場人物のみんながやさしい。そのやさしさに泣いちゃうんです。
だから研究どころじゃない。

今年読んだ本の中のベストテン入り確定です。


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2010年10月12日火曜日

理解できないトコが面白い

『現代文訳 正法眼蔵3』(道元著/石井恭二訳)読みました。

ずっと前から疑問に思っていたこと。
宗教って、
みんなが幸せになる方法を教えてくれるものだといわれてるのに
(いわれてるでしょ。そう思っているのぼくだけかな。
まあ、いいやぼくの独りよがりの誤解でも)、
みんな安らかに生きましょうって教えてくれるものなのに、
その信仰がもとで、
戦争とか争いごとが起きるのってなんでだろう。

その答えみたいなモノがちょっとだけ、
この本を読んで見えた気がしました。

だってすごいんですよ、道元さん。
もしかしたら現代語に訳しているからかもしれないんですが、
違う考え方をしているヤツをけちょんけちょんに貶すけなす。

そんな考え方するヤツは人間ではなく畜生だとかね。

そんなふうにいわれたら、やっぱケンカになっちゃうでしょ。
文書に書いているだけで、
面と向かってはそんなこと言わないかもしれないけど、
言われている当人が読んだら、気分は悪くなるだろうな……。

とはいえ、ぼくが理解できたのはそんな人をけなしている部分などを
含めた全体の約5分の1くらい。あとはやっぱよくわかりません。

でもね。
3巻目まできて、わかってきたことが1つ。
すんなり理解できる部分はあまり興味が持てず、
理解できない部分が面白いってこと。

なんじゃそりゃって気がしますが、
全5巻なのであと2巻。がんばります。

現代文訳 正法眼蔵 3 (河出文庫)現代文訳 正法眼蔵 3 (河出文庫)
道元 石井 恭二

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2010年10月8日金曜日

熱狂と虚脱

『同日同刻』(山田風太郎)読みました。

読んだ本の感想を書くような体裁になっていながら、
なんだか自分ことばかり話してる。

わかってるんですけどね。

でも本の内容紹介だったら、
今はネットで一瞬で表示できちゃうので、
わざわざぼくがやることもないかなって思い、
今回もぼくの高校時代の昔話をちらっと。

高校生のとき部活はバドミントンをやってました。
その3年間の中で、一番熱狂した試合があったんですが、
それ、じつは自分が出た試合じゃなかったんです。

1つ上の先輩たちの引退試合。
その試合に勝ったら、ベスト4とかにいけそうな位置。
でも相手は強くて、歯が立たなかったんです。

それでも先輩たちは、
あと1点取られたら終わりってときに、
あきらめずに頑張った。

なんと十数点連取して追いついちゃったんです。
それでも結局負けちゃったんですけどね。

このときです。ぼくが熱かったのは。

自分でも驚くくらいでかい声を張り上げて声援をおくり、
真っ赤になるほど手を叩いて!

で、最後の1点を取られたとき
──虚脱、キョダツ、きょだつ……でした。

あと1点で終わりってギリギリのとき、
必死にもがいている先輩がそのモガキもむなしく
破れてしまった状況。
それを自分のことのように応援し、
自分のことのように虚脱した状況。

この本を読んで思い出したのは、その状況でした。

この本が教えてくれるのは、
終戦のときの日本の指導部のドラマなので、
ぼくの思い出した状況とはまったく次元は違います。

でも出てくる人たちの熱さが、
幼稚な経験しかないぼくの熱狂した昔を
頭によぎらせたんです。

不謹慎かもしれないんですが、
この本、すごく面白かったです。

同日同刻―太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日 (ちくま文庫)同日同刻―太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日 (ちくま文庫)
山田 風太郎

筑摩書房 2006-08
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