2011年10月25日火曜日

密度が濃い時、薄い時、まだらが常態。

『ふがいない僕は空を見た』(窪 美澄)読みました。

仕事で1冊の本をつくるとき、
長いものでは半年から1年、普通だと2〜3カ月、
特急仕上げで1カ月くらいの期間がかかっています。

そこから考えると、
新規の受注は3カ月に1回程度の割合でもらえると、
ちょうどよくクルクル回転させられる
ってことになるようです。

でも、なぜだか世の中はそう上手くできていません。
どこかで聞いたセリフなんですが
「うち仕事は、死ぬほどヒマか、
死ぬほど忙しいか、どちらかだ」。
なかなか均一ってのはむずかしく、
社会のデフォルトは「まだら」のようです。

少し前も、4冊同時に声が掛かったことがありました。
朝、メールをチェックしたら、2件の新規案件が入っていて、
「うわー今日はなんかスゴっ」て思っていたら、
お昼ごはんを食べる前に、
とってもご無沙汰している人から、
「こんな本つくらない?」って電話。
ひょっとして示し合わせているのかって
聞いちゃったほどです。

そんで、ふーっと一息ついて午後、
さあー続き続きと、ぺこぺこキーボードを打って
2時間くらいたってやっと調子に乗ってきたころ、
今度は初めて電話しましたという会社の人から、本づくりの依頼。
なんでこんなに重なるんでしょう。

で、この『ふがいない僕は空を見た』。

とっても良かったです。5つ星!
今年は後半になるまで、良い本に出会わないなと思っていたら、
つい先日の『ジェノサイド』といい
『虚言少年』といい『空色バトン』といい、
立て続けに5つ星の嬉しい出会い。

もっと均等にばらけてもいいと思うんですが、
時期って重なるモンなんですね。
社会のデフォルト「まだら」は、
ぼく個人にも適用されているようです。


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2011年10月20日木曜日

もし弟子が天才だったら。

『根津権現裏』(藤澤清造)読みました。

まず、Wikipediaに載っていた
15世紀の画家についての解説を引用しちゃいます。

『アンドレア・デル・ヴェロッキオ(Andrea del Verrocchio,
1435年頃フィレンツェ - 1488年ヴェネツィア)は、
イタリア・フィレンツェで工房を構えた
ルネサンス期の彫刻家・画家・建築家。
レオナルド・ダ・ヴィンチの師であったが、
年若い彼が描いた絵を見て、その見事さに驚愕し
その後絵を描かなくなったと伝えられている』

昔、レオナルド・ダ・ヴィンチのことを
記事に書いたことがあって、
そのときこの師匠のことを知りました。
才能を持った弟子が、
師匠をらくらく越えちゃうってことは、
世の中にはままあるんだなって感心して、
ぼんやり覚えていたんです。

で、この『根津権現裏』。

最近芥川賞をとった西村賢太さんって作家が、
昭和初期に亡くなり、
その後ほとんど世に知られることのなかった
藤澤清造さんて人を、もう一度見直して欲しいと、
出版社にかけあって、復刻された本だそうです。

西村賢太さんは、
藤澤清造さんの没後弟子を自称していて、
人生が変わるほどの相当な影響を受けたっていってます。

ぼくがこの『根津権現裏』を読んだのは、
この西村賢太さんの本が面白かったから。
芥川賞をとった『苦役列車』です。
こんなおもろい小説のバックボーンになっている、
いわばネタ元は、ぜひ押さえておきたいと手に取ったんです。

でも、でも。ううーん……ダメでした。
申し訳ないんですけど、途中で飽きてきちゃった。
没後弟子の西村さんの作品のほうが、
ぜんぜん上だなって思っちゃったんです。

そこで思い出したのが、
レオナルド・ダ・ヴィンチとその師匠の関係。
西村賢太さんが、藤澤清造さんのいる時代に
もし弟子入りしていたとしたら、どうだったろうかな、
なんてつまらぬ想像をしてしまいました、とさ。


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2011年10月17日月曜日

怒られちゃうかもしれないけど。

『ジェノサイド』(高野和明)読みました。

今はもう、年に数回ほどしか
足を運ばなくなってしまいましたが、
20年ほど前の若かりし頃は、
一年で300本ほど映画を観ていました。
もちろん映画館に通ってです。
新作ロードショーは高いので、
ほとんどが2番館でしたけどね。

それだけの数なんで、
当たり前といえば当たり前なんですが、
ほとんどが一人での鑑賞です。

誰かが一緒だと、映画を観終わった後、
感想を言い合ったりしなきゃいけなくて、
それがあまり好きじゃないってこともあります。
自分の頭の中だけで、
あそこがダメだったとか、ここが良かったとか、
ひたっていたい。

人と話をするのが
そんなに得意じゃないって理由もありますけどね。

そして、一人鑑賞を好んだのには、
もう一つ理由があります。

それは、観終わった後のタバコ。
これは一人がマストの条件でした。
一人じゃないとダメなんです。
他の人が側にいて、話しながらタバコを吸っていると、
話に気をとられて、味がわからなくなっちゃう。

今観た映画を思い出しながら、
一人でタバコを吸い、その味を確かめる。
すると、なぜか良かった映画の後は、
タバコが美味しく、つまらない映画だと、
めちゃくちゃまずく感じるンです。
たぶん精神的なもので、とんでもない勘違いなんでしょうが……。
それにタバコがとっても煙たがられている今の時代、
こんなこと書いているだけでも、怒られそうな気がします。

で、この『ジェノサイド』。

精神的なもので、とんでもない勘違いだとは思うんですが、
読み終わった後のタバコが、ちょー美味しかったんです。
こんなこと書いているだけでも、怒られそうな気がしますが。

ようするに、この本すごい! ってこと。

いやいや、面白いのなんの。
今年は、当たりの本がないかなって思ってたけど、
10月になってやっと満足できる本に出会えました。
読んでいる途中で、
「早く読み終わって、もう1回読み直したい!」と何度思ったことか。
これ、おすすめです。

ジェノサイド
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2011年10月12日水曜日

ぼくはセリフがヘタくそです。

『1000ヘクトパスカルの主人公』(安藤祐介)読みました。

「今、何やってるんですか?」「評判の女子大生だよ」とか、
「君は一生懸命やれることを見つけなさい」とか、
「俺、がんばるよ。あの女子大生の人みたいに」などなど。

学生時代に撮っていた自主映画に出てくるセリフです。
脚本を書いたのはぼく。
あー恥ずかしい。
なんてこなれていないセリフなんでしょう。

脚本でも小説でも、
ぼくの書いたものを他の人に読んでもらって、
感想を聞くと、決まって言われるのが、
「セリフがへたくそ」。

自分では一生懸命リアルに書いているつもりなんですけどね。
セリフを書いているときは、
自分でも気がつかないうちに声に出して、
一人で掛け合いながら書いるんですけどね。
それでも、しばらく時間をおいて後から読み直してみると、
自分でも「へたくそ」と思っちゃう。

やっぱり、本当に声に出して発せられる言葉と、
目で字面を追って確認される(つまり文章)言葉とは
違うモンなんでしょうね。

だから、声に出して掛け合いながら書いても、
文字にするとヘンになる。
といっても、ぼくが学生時代に書いた脚本は、
役者(もちろんプロでもなんでもないただの友だち)が
声に出してしゃべってもヘンでしたが…。

書き言葉の中のセリフっていうのは、
無理に話し言葉のリアル感を出さないほうがいいんだろうな、きっと。
目で追って、頭の中だけで完結するから、
それ用の表現が必要なんだろうな……とか考えつつ──

で、この『1000ヘクトパスカルの主人公』。

読んでいる途中で、
昔ぼくが書いていたセリフを次から次へと思い出しちゃいました。
もしかしたら、知らないうちにこの作者も、
自分で声に出して一人芝居をしながら、書いているのかな、
なんて勝手な親近感を持ちながらの読了。


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2011年10月4日火曜日

あまのじゃくのお勉強

『阿房列車』(内田百けん)読みました。

ひゃっけん先生のけんの字、門構えに月ですが
入力すると機種依存文字のチップが表示されるので、
ひらがなにしました。文字化け対策です。

ほんで、いきなりですが、
ぼくは中学の3年間、
ちょうどこの本の表紙右下にあるカバンのような
ふくらみ具合の学生カバンをぶらさげて
学校に通っていました。

当時、学生カバンは校則で決められた必須アイテムです。

でも、みんなは、このふくらみをできるだけ抑えて、
薄っぺらに加工したものを使っていました。
その薄さと、不良度合いは正比例していて、
生意気でツッパリなほど、カバンはぺらぺら。

ツッパリじゃない普通の生徒も、
ふくらんでいたらカッコ悪いと、
両側面を糸でくくったりして、なるべく薄くしていたんです。

そんな中学生社会にいながら、
カバンの中に教科書を横置きしてまでも、
ぼくがふくらみを守った理由は、
「みんながやっているからやだ」でした。

我ながら相当ヘンなヤツだと今まで思っていました。
そんなことやってるヤツは他にいないだろうと。

ところが! いたんです!
同じことやってるヤツ。
ごく近くです。ぼくの後ろの席に座っている、
毎日顔を合わせてる会社の仲間。
わざと人に逆らう言動をとるヤツ、
つまり「あまのじゃく」仲間です。

で、この『阿房列車』。
あまのじゃく精神ばりばりの本でした。
後ろの席に座っている仲間や、ぼくなんて、まだまだ。
相当ひゃっけん先生から吸収しないといけないです。


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