2015年9月30日水曜日

『ソウルアイランド』(中越信輔)読みました。

たしか今年のはじめ、
母校の映画学校で
担任だった(30年程前のことですが…)
武重邦夫先生から電話がありました。

思えばあれが、
生前の武重先生とお話した最後でした。

用件は「本を印刷してくれ」でした。

先生は、何か勘違いされていたようで、
ぼくが印刷屋を兼ねた出版社を
やってると思っていたみたいです。

(ぼくの会社の仕事内容は、出版社などからの依頼で、
 原稿を書いたりレイアウトをしたりといった
 印刷する前のデータをつくることです)

ぼくは自分の仕事の内容を説明しました。
先生は、それじゃ仕方ないと、
すぐ納得してくれました。

でも、話はそれだけじゃ終わりません。
だって武重先生ですから。

若手の映像作家の作品を、日本とアジアで
100本つくるプロジェクトが進行中だとか、
タイで仕事をしているぼくの同級生と組んで、
最近つくった作品の上映を進めるとか、

自分が今進めているあれやこれやを、
楽しそうに、目をキラキラさせながら
(電話なので見えなかったけど、
 電話口から光線がこぼれていました)
とうとうと、話してくれたんです。

70歳を過ぎて、
がんも患っている人の口調ではありません。
あれは、ぼくらが映画学校で、
青臭い議論を交わしていた頃の声の響きと同じでした。

で、この『ソウルアイランド』。

どうやら、あの電話は、
この本の印刷に関してだったようです。
完成おめでとうございます! 合掌



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2015年9月28日月曜日

『妖説太閤記(下)』(山田風太郎)読みました。

この前の『鬼平犯科帳9』の
感想で書いた「上司」は、
かなりの太っ腹で、清濁併せのむというか、
世間の常識からすれば、
「それって詐欺じゃない?」
と言われかねないようなことでも、
「大丈夫、大丈夫」と、
平気でやっちゃうような人でした。

その「上司」が、しみじみと
こんなセリフを言ったのを覚えています。

「ワルになりきれないのが、
 おれの悪いところだ。
 ここってトコでブレーキがかかる」

この上司、ぼくからみれば十分にワルでした。
それでも、究極のワルにはなれないという。

きっと、彼の友だちや知人に、
上には上のワルがいたんでしょうね。

それこそ、ぼくなんかは
テレビや映画なんかでしか見たことのない、
人を殺して眉一つ動かさない冷血漢とか、
強姦なんか朝飯前みたいな
畜生もどきのような人種を
たくさん知っていて、
そんな連中と自分を
比べていたのかもしれません。

本当はそんな人種にならなくて
よかったと思っているのに、
どこかで憧れていたりする。
だから「おれの悪いところ」
なんて表現を使う。

で、この『妖説太閤記(下)』。

山田風太郎さんの描く豊臣秀吉は、
この上司がどこか憧れているような人でした。
そんなワルを、
これでもかってくらいに書ける山田さんって凄っ。


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2015年9月24日木曜日

『鬼平犯科帳(9)』(池波正太郎)読みました。

昔、工場まわりの営業マンを
していたことがありました。
売っていたのは、結構大きな機械設備。

大変だったのはその搬入時です。

重機が入らないような小さな工場だと、
脇の公道にクレーン車を横づけにして、
塀ごし屋根ごしにつり上げて、
機械を敷地内におろすんです。

そんな搬入作業をしていたときのことでした。

公道に止めたクレーンが邪魔だと
クレームが入ったんです。

苦情対応をするのは営業担当の役目。
つまり、ぼくです。

どうしよう、やだな、平謝りするしかないな。
だって本当なら、
警察から道路の使用許可をもらわないとダメなのに、
申請すらしていないし。

経費削減とかいって、
上司からは交通整理の警備員は使わず
ちゃっちゃとすませろっていわれて、
その通りしちゃってるし。

なんてことを思いながら、
クレーム主のところに行くと、

ダボダボズボンの鳶服を着た
威勢の良い江戸っ子職人という感じの
親方と若い衆の2人組。

おずおずと出てきた
よれよれネクタイのぼくを見つけるやいなや
「兄ちゃんが、しきってんのかい!」と、
ドスのきいた声を張り上げたんです。

ぼくがビクッとしたそのとき、

後ろから「いや〜すまんね〜」
と声がかかりました。

なんと、
あの警備員不要と命じた上司です。

上司は、
てやんでぇ調の2人に笑顔で話しかけて、
即座になだめると、

「きくち、あとよろしくな」と言って、

そのまま、2人を連れて、
近くにあったピンク街のほう行っちゃったんです。
あの上司、カッコ良かったなぁ。

で、この『鬼平犯科帳9』。

鬼平を読んでいると、物語のあちこちで、
あの上司の顔が浮かんできます。



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2015年9月18日金曜日

『心臓の力 休めない臓器はなぜ「それ」を宿したのか』(柿沼由彦)読みました。

ぼくもときどきこのブログでは
「ご存じの人もいるでしょうが」など
読んでくれる人に呼び掛けるような
物言いをすることがあります。

でも、仕事でやっている
不特定多数の読者に向けた文章では、
覚えている限り、
そうした呼び掛け文句は使っていません。

間違いだとか、ふさわしくないとか、
そんな正当な理由があるわけじゃなく、
単に好きじゃないって理由です。

今、はまって読んでいる『鬼平犯科帳』にも、
「あの事件を覚えている読者もおられよう」なんて
作者・池波正太郎さんの但し書きみたいな言葉が
地の文にまぎれ混んでいたりするし、

山田風太郎さんの作品にも、
そうした文言はあちこちに出てきます。

でも、そんな呼び掛け言葉が出てくると、
なぜかしらソワソワしてモゾモゾして、
落ち着いていられなくなっちゃうんです。

学校で一生懸命に授業の内容に集中していたとき、
いきなり先生に「きくち答えてみろ」と
指されたような感じ。

なので、
ぼくが仕事で書く文章にはなるべく、
ドギマギさせるような言葉は入れたくないって
思っているんです。

で、この『心臓の力』。

感覚としては5ページに1回、
ドギマギしました。

そわそわモゾモゾさえ我慢すれば、
興味深い内容なんですけどね。





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2015年9月16日水曜日

『妖説太閤記(上)』(山田風太郎)読みました。

子ども向けの読み物や、
おかたいお役所的な情報誌、
女性向け雑誌に、
技術者に読んでもらうための
仕様書みたいな印刷物……
スケジュールと条件さえあえば、
どんな作文でも、
「はい!やります!」
って言ってきたんです、ぼく。

それがライターっていう職業なので
不満はないし、というか楽しい。

文章は、その都度、
それぞれの媒体に合わせて変えていくけど、
それも部品をくっつけながら
つくっていくプラモデルみたいで、
鼻歌かましながら、
キーボード叩いていたりします。

上の文章、もし子ども向けだったら……
「作文のときは、どんな人が読むのか、
 考えながら書いていくんだ。
 この言葉を使えばわかりやすいかな、とか。
 こんな言い方すれば、
 面白がってくれるかな、とか。
 そんなふうに書いていくのって楽しいよ」

おかたくしなきゃの媒体なら……
「文章は、媒体の特性を考慮し、
 適切に表現していきます。
 ターゲットにする読者層の
 知的レベルに応じて使用する言葉を選択し、
 語順にも配慮する。
 その作業は容易ではありませんが、
 やりがいを感じます」 って感じ。

で、この『妖説太閤記(上)』。

これまで読んできた、主に忍法モノの
風太郎作品と違いました。
なんだか文体まで違ってる気がします。
違う読者層を狙ったのかなぁ。
まあ、これはこれで嫌いじゃありません。
でも、忍法モノのハチャメチャさのほうが、
好きではありますけど。



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2015年9月14日月曜日

『鬼平犯科帳〈8〉』(池波正太郎)読みました。

会社からの帰宅の途には
バスを利用しています。
その車中は本読みの時間。

路線は、池袋から高島平のほうへ
向かうルートです。

ぼくが乗っているのは、
主に中山道を通る区間で、
会社のある要町から乗り、
いくつかの停留所を超えて、
板橋区役所を過ぎると、
次は「仲宿(なかじゅく)」
というバス停になります。

仲宿近辺の中山道は、
上に首都高が走っていて、
片道3車線か4車線ほどもあり、
広くて交通量も多い道です。

仲宿からもう少し先にいくと、
中山道は環七とぶつかる大和町
という交差点になり、
ここはちょい昔、
排気ガスの濃度が
日本で一番高い場所だったそうです。
(今は改善されてるみたい)

こんなとこにゃ、昔ながらの環境は、
かけらも残っていないぞ!
歴史を感じさせる街には、ほど遠い!
と思いきや、
やってくれましたよ、仲宿が。

なんと、この『鬼平犯科帳〈8〉』に
登場してるんです。

もちろん、物語の舞台は、
鬼平こと長谷川平蔵が活躍する江戸時代です。

その鬼平が、
今の文京区本郷あたりから、
盗賊を追いかけて、板橋方面にやってくる。
んで、「えいやーとうー!」の立ち回りを
仲宿でやってくれるんですね。
ちゃんと「仲宿」って文字が
印刷されてるんですから。

「次は仲宿、仲宿。
 お降りの方はブザーでお知らせください」

のアナウンスが流れたその瞬間、
『鬼平8』の文庫本のページを追う
ぼくの視線は、「仲宿」の文字の上を
ちょうど通過したところだったんです。



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2015年9月11日金曜日

『眠狂四郎無頼控(二)』(柴田錬三郎)読みました。

仕事に差し障りがりあるかもしれないけど、
まあいいでしょ、言っちゃいます。

どこかで目にしたことは
あったのかもしれないけれど、
「実はぼく、この言葉、
 意味を理解していませんでした」選集!
(といっても、ありすぎるので2つだけ)

●天稟……読みは「てんぴん」。

ルビが振ってあったのに「ぴ」を「び」と間違え、
いくらローマ字入力しても変換されず、
「何だよこの入力ソフト、へぼだな」
とぼやいたけど、自分がへっぽこなだけでした。

辞書には
「天から授かった資質。
 生まれつき備わっているすぐれた才能。天賦」
とあり、例文に、
ぼくもとおの昔に読んでいるはずの
『吾輩は猫である』の一文が出てました。

●炯々……読みは「けいけい」。

辞書によると「鋭く光さま」。
例として「炯々たるまなこ」ってのが
載っていて、つまりは「鋭く光る眼差し」
という感じですかね。

なお、この例文もどうやら
ぼく既読の『吾輩は猫である』からみたい。

で、この『眠狂四郎無頼控(二)』。

上の2つ以外にも、
ぼくの知らない言葉がわんさか出てきます。
そんな意味では勉強になるかもしれませんが…。

第一巻で止めておけばよかったかな。
とりあえず、第三巻はまだ入手してはいません。



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2015年9月9日水曜日

『流』(東山彰良)読みました。

前に書いたかもしれませんが、
ぼくは月に1度、本をまとめ買いします。

新聞、雑誌、ネット、
既読の本の中に出てきた作品、
お気に入り作家の新刊などを紙にメモし、
それを見ながら、
本屋さんの棚から抜いていきます。

1回で仕入れるのは、
だいたい10冊くらいです。

前回の仕入のとき、
メモ書きの10冊の中に、
中島京子さんの新刊『かたづの!』が
入っていました。
(『長いお別れ』がいいなと思ったので)

ところが、
その本屋さんでは品切れだったんです。

この月一回の入荷で、
ある程度の冊数を仕入れておかないと、
その月(今月)の楽しい読書生活に
支障を来してしまいます。

なんでもいいから、
代替本を入手しなくちゃいかん!

と思って、
本屋さんの店内を見渡したとき、
目に付いたのが、

この『流』でした。

ちょっとためらいはあったんです。
世間の評判に流されるように買った本で、
面白いと思えた作品は
今まであまりなかったから。
(へそ曲がり的性格が多分に影響しています)

うーん……
来月は『かたづの!』が入荷していますように。



流
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2015年9月7日月曜日

『鬼平犯科帳〈7〉』(池波正太郎)読みました。

ちょっと憲法条文で遊んでみます。

《お遊び文章》
 その日。
 日本の国民は、自国の憲法を〔確定〕した。
 条文の冒頭には、国民は、ただしく選ばれた国会の
先生がたを通じて行動すると述べられてい、外国との
協調もうたわれている……。
 国民は、子々孫々、手のうちに自由を得るため、
(政府は、二度と戦争を起こしちゃならねえ……)
 と考えたのである。
 これにより、主権は〔国民に存する〕ことになる。

《原文》
日本国憲法(昭和二十一年十一月三日憲法)
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を
通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国
民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由
のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦
争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、
ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を
確定する。

で、この『鬼平犯科帳(7)』。

もちろんお話はしびれるほど面白かったです。
それに加えて、中島梓さんの解説もよかった。
上の文章のお遊びは、
その中島さん解説のオマージュもつもりでした。


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2015年9月4日金曜日

『鬼平犯科帳〈6〉』(池波正太郎)読みました。

最近なんとなく読書の嗜好が
変わってきたような気がします。

基本はなんでもかんでもOKで、
活字さえ並んでいればそれでニンマリなんです。
物語であれ、ビジネス書であれ、ね。

んで、好みの変化が見えるのは
小説、物語のジャンルです。

確か昔はそんなこと考えずに、
中身も確認せずに買っていました。

でも、ここ1年くらい
短編集を避ける傾向が現れているようなんです。

書店でぱらぱらっとめページをめくって、
「わっ、これ短編じゃん」って気づき、
そのまま棚に収めちゃうなんてことが
何度かありました。

人様よりも記憶力に難があると思われるぼくは、
長編を読んでいる途中で、
前のストーリーを忘れてしまうことも
しばしばあるから、
短編集のほうが手軽でいいはずなのに…。

なんでしょうかね、この心境の変化。
ページを積み重ねる重たさみたいなものを
欲しがっているのかなぁ。

で、この『鬼平犯科帳(6)』。

登場人物は同じでも、
一つひとつのお話は30ページほどで
完結しているから、短編集ですね。

でもね。
短編なのに長編読んでる気がするんです。
改行だらけで文字数少ないのに、
メチャクチャ文字が入ってくる気がする。
なので避ける対象にはならないんです。

不思議です、鬼平。



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2015年9月2日水曜日

『忍法八犬伝』(山田風太郎)読みました。

TVマンガの『ルパン三世』が話題になると
必ず思い出す場面があります。

群集がみんな、
ルパン、次元、五右衛門に
なっちゃうシーン。

あっちにもこっちにも、
めちゃルパン。山盛り次元。
ぎょうさん五右衛門。

銭形のおっさんや警官隊が、
捕まえても捕まえてもコピー機が
連続複写するように、
この3悪党が吐き出されてきて、
ついには銭形警部のコピーまで
街中にあふれかえる。

あれを観たときには子供心にも
「すごいアイデア!
 こんなのぼくにはとても思いつかない!」
なんて、ほとほと感心したものです。

が、しかし。
このアイデアって、
ルパンが初めてじゃなかったんですね。

で、この『忍法八犬伝』。

出てきました。
変装によるコピー人間いっぱいのアイデア。
もしかしたら、
これも過去のなんかの作品から
着想をもらったのかもしれないけど、
それにしても楽しい。

山田風太郎ベストコレクションシリーズを
読み進めてて、今、半分くらい読了。
まだ半分強残っているのが
うきうきできてうれしいです。


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