2011年5月26日木曜日

読書環境で変わる作品の評価

『偉大なる、しゅららぼん』(万城目学)読みました。

この前『雁の寺・越前竹人形』のことを書いた際、
読者が作品に触れるときの年齢について触れました。
(下にスクロールすると読めると思います)

同じ人が同じ作品を読んでも、
年齢が違っていると、評価が変わってくるなって話です。

実はこれ、年齢だけじゃなかったんです。

それは、読書環境の違い。落ち着き度合いの違いです。

この『偉大なる、しゅららぼん』
とっても面白うございました。
でも、なぜかしら、邪魔が入る読書環境だったんです。
電話が鳴ったり、
「なるはやでお願いします」とかのメールが入ったり、
宅配便さんが来たり、
果ては、お茶をこぼしちゃったり。

そんな、あれやこれやの邪魔が、
「うわーっ、そうくるか!」
「このキャラすごい!!」
「えっ、じゃあ次はどうなるの!?」
……なんて、わくわくどきどきの最中に襲ってくるんです。

なぜでしょう。
やっぱ、この作品の不思議な力のなせるワザなんでしょうか。

ということで、作品は本当に面白かったんですが、
なぜか印象がぼやぼやになってしまい、
ぼくの評価は「惜しい!」。

もうしばらく経ってから、この作品を再読し、
そのときもいろんな邪魔が入るようだったら、
違う意味ですごい本なのかもしれません。

年齢と読書環境、
これは間違いなく作品の受け止め方を変えちゃいます。

偉大なる、しゅららぼん
万城目 学
集英社
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2011年5月23日月曜日

年代別、読書感

『雁の寺・越前竹人形』(水上 勉)読みました。

確か20歳代のころ、
志賀直哉の『和解』について、
「お前はまだ若すぎてこの作品の良さはわかるはずはない」
と言われたことがあります。

そんで、読んでみたら、やっぱり興味はわかず、
いやいやそれは年齢じゃなく、
作品自体の力ってモンでしょうと思い、
良い作品なら読者の年齢など関係なしに誰でも感動できるモンだ、
なんてひねくれてました。

で、この『越前竹人形』。
そのひねくれの20歳代に一度、読んだことがあるんです。
そのときは、ものすごく素晴らしい作品だと感じ、
人生が変わっちゃうよくらいに思えたんです。

それから二十数年。
新刊のストック本がなくなり、
仕方なく本棚の隅に隠れていたこの本を再読。

あのときの感動をもう一度と、
どきどきしながら読みました。

驚いたのは、細かい部分はもちろん、
全体のストーリーも結末もまったく忘れていること。
ひとかけらの記憶もありませんでした。

まあ、だから新鮮な気持ちで読めたんですが、
期待に反し、怒濤の感動はまったくなし。
ふーん、面白かったって程度です。

やっぱり、読む年代によって作品の評価は違うのかな。
『和解』も、もう一回読んでみようかな。

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水上 勉
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2011年5月8日日曜日

仮面ライダーカード集めてました。

『県庁おもてなし課』(有川 浩)読みました。

仮面ライダーカードが、
もし仮面ライダースナックのオマケではなく、
単体のカードだけで売られていたら、
あんなに大ブームになったんだろうか……
って、考えることがあります。

段ボール1箱ぶんのスナックを買って、
カードだけ抜き取り、本体のスナック菓子を
捨てようとしていたお金持ちのぼんぼん達から、
ぼくはよくお菓子だけもらっていました。

ぼくの味覚では、お菓子はそんなにまずくなかったんです。
でも、ホントにもらいたかったのはカードなんですけどね。

今でも語り継がれるだけの大ブームになった要因は、
いくつもあると思いますが、そのひとつは
「お菓子を買わないとついてこない」という制約のせいだ、
って勝手に考えてます。

さて、今回は短かめの前置きにして、
この『県庁おもてなし課』。

この本にはいわゆるオマケがついています。
いやいやオマケといっても、
別の小袋で貼り付けあるようなものではありません。

あとがきとか、作者と関係者の対談とか、
物語の内容とリンクするような自治体の活動紹介とか、
物語とは別の文章が巻末に載っているってことです。

んで、そのオマケが結構面白い。
んで、小説自体もそれなりに楽しめる。
楽しめちゃうので、そのままの勢いでオマケも読んじゃうんです。
そうするとやっぱり、小説とオマケとは別物なので、
面白さとか楽しさとかが、ごちゃまぜになって、
へんてこな味になってしまいます。

なんだかもったいない。

小説は小説だけで読みたかった。
オマケはオマケだけで読みたかった。

でも、きっとオマケはこの小説を読んでいないと
意味が通じない部分もあるし、
もし、それだけ別売されててもきっと買わないし、読まない。
オマケはやっぱ本体がないとダメなんですね。

仮面ライダーカードも本体のスナックがあったから、
みんなあれだけ熱狂したんだと、あらためて思う今日この頃。

県庁おもてなし課
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有川 浩
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2011年5月6日金曜日

とっても格調高いです。

『村田エフェンディ滞土録』(梨木香歩)読みました。

昔、『読んでみたい源氏物語』って本をつくったことがあります。
あらすじと豆知識をちりばめ、
お手軽に源氏物語を知ってしまおうという本です。

源氏物語って、オリジナルは千年も前に書かれたものなので、
今とは相当違う言葉づかいになっています。

例えば今なら第1章とか第1節とかの用語を使って、
お話の区切りを表したりするんだけど、
源氏物語では「帖」。「じょう」ですよ。

第1帖とか第2帖とか。
部屋の広さじゃないんです。

法律とかで使われてる「条」なら、
まだわからないでもないんですが、
「帖」って何よって思っちゃいます。

読む人の思考を、
複雑な文章のつくりや難解な用語で止めてはいけない、
すすっと読めて、中身がストンと頭に落ちないといけない
──本をつくるときは、いつもそんなことを
考えながらやってるぼくは、この源氏物語の「帖」が
なんとも悩ましかったんです。

いっそのこと、
チャプター1とかセクション1とかに変えちゃおうかと
何度も試行錯誤しました。
だって、古文に一度も触れたことのない人にも
読んで欲しかったんですもの。

でも、それだと、ぼくのつくった本をきっかけに、
源氏物語にはまる人がもしいたら、
その人に申し訳ない。
たぶん、そんな人は原文や現代語訳を読むことになるだろうけど、
そこにはチャプターやセクションなんて、どこにも出てこないから。
逆に混乱しちゃうだろうなって思ったんです。

で、結局「帖」はそのままにしました。
今でもどちらがよかったのか判断できていません。

そんな感じで、ぼくがつくる本は、
できるだけ何も考えずに、
文字を目で追っていくだけで、
内容が伝わるものにしたいと思っているんです。

文章の「重々しさ」とか「格」なんていらない。
それってぼく自身にもいえるんですけどね(名誉とかって要らないです)。

でも、物語を語る小説を読んでいて
「うわっ、これはなんて品のない文章なんだ」とか
「もっと重々しく書けないのかな」なんて感じて、
内容はストンと頭に落ちてくるものの、
評価が低くなってしまう作品がたくさんあります。

それとは逆に、
「この文章は格調高いな」とか、
「熟読しないとこの文の構造は理解できないけど、そこが素敵」なんて
思って、大好き本リストに加えてしまうものも少なくありません。

人に読んでもらう本は「わかりやすく」って思いながらつくる。
で、自分が読む本は多少小難しい文章でもそのほうが楽しい。
うーん、これって矛盾そのもののような気がします。

で、この『村田エフェンディ滞土録』。
とっても格調高い文章です。
今度はこの文章を真似て、本づくりしようかなと思うくらい。

あっ、そうそう。
ちなみに『源氏物語』の原文も、
あちこちで格調高いっていわれてます。
んで、ぼくのつくった解説本は、
文章的には何の格調もありません……はい。


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