2010年8月31日火曜日

石炭をば早や積み果てつ。

『遠野物語 付・遠野物語拾遺』(柳田国男)を読みました。

石炭をば早や積み果てつ。
中等室の卓のほとりはいと靜にて、
熾熱燈の光の晴れがましきも徒なり。

……はい、正解です。
森鴎外の『舞姫』の冒頭ですね。

今もあるかどうかは定かじゃないんですが、
ぼくのときは、高校の現代国語の教科書に載っていました。

さて話はその高校時代です。
ぼくの人生の中で、一番勉強しなかったのが、この高校時代。
授業の復習はもちろん、予習もやった覚えがありません。

あろうことか、そんなヤツに!

森鴎外が大好きだという現代国語の先生は、
「今日から、最も優れた日本文学といわれている『舞姫』だ。
予習はしているだろうが、そんなんじゃ足りないってこと、
よく教えてやるからな。
それじゃあ、えーとお前、最初から読んでみろ」
とおっしゃった!

ぼくは、最高の日本文学だろうが何だろうが、
日本語なんだから、びびることはないだろうと、
元気よく返事をして立ち上がり、
ぴかぴかの教科書を開き読み始めました。

「まいひめ!

せきたんを、ば、そうや……

  ……えっ

せきたん、を、ば、はやせき……

  ……あれっ?

いし、すみを、そうや、つみか……

  ……んっ?

せき、すみ、をばそう、やつみ……」


「ばかやろう!」

石炭をば早や積み果てつ。
ぼくは、この一文を10パターンほど
独自の文節に区切って読んだのです。

日本語だからびびる必要はなくても、
文語体なのでびびらなくてはいけなかったのです。
なんでこれが現代国語?

今では、この現国の先生のお陰で、
舞姫冒頭の一文は暗唱し、森鴎外も好きな作家になっています。

で、『遠野物語』。
後半の「遠野物語拾遺」や解説などは口語体ですが、
メインの本体は、なんと文語体。
初版からちょうど100年経つ本なので、まあそうですよね。

でも! すんなり読めちゃいました。
独自の文節区切り読みになることもなく、
すすっと理解できちゃったんです。

うーん。これも現国の先生のおかげかな。

また内容に触れずにこんなに書いてしまいました。
感想といえば、「なんでみんなこの本をありがたがるかなぁ」
それがわからなかかったです。

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)
柳田 国男

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2010年8月27日金曜日

七味をかける前の状態。

『砂漠の惑星』(スタニスワフ・レム)読みました。

ぼくがやっている本をつくる仕事の中に
レイアウトの作業があります。

テキストと写真の位置を、
こんなもんかな、などといいながら配置したり、
イラストの大きさを調整したり、
○とか□とか飾りの罫線とかを加えたりして、
読みやすくカッコイイ見栄えにする作業です。

たいていは、最初に手書きのラフをつくっておいて、
それに合うようにパソコンで各素材を組み合わせて仕上げます。
ぼくの場合は原寸のラフをつくっているので、
このパソコンの組み合わせ作業が終われば、
「よしできた!いいんじゃない」と、
作業していたページが組み上がります。

でも、そのときに、
「いいんじゃない……けどなぁ」と
「……けどなぁ」の言葉が出てきてしまうことがあるんです。

そんなとき、何かの拍子に
「この右端を揃えている写真の位置を、
少しずらして段々にするといいかも」
なんて思いついたりします。

で、その通りやってみると、
「わっ、これカッコイイ! それに読みやすい!」ってなるんです。
……まぁ、そんなにうまくいくことは、まれですけどね。

身近な例にたとえると、
美味しいモノ食べて「うん、うまい」と一度はうなったのに、
何気なくテーブルの隅にあった七味をかけてみたくなり、
やってみると、
「すっごい美味しい!」って感動しちゃうような感じです。

さて、この『砂漠の惑星』。
ぼくのレイアウト作業のときの
「……けどなぁ」の言葉が出てしまう状態。
七味をかける前の状態。
……ぼくにとっては、そんな作品でした。

悪くないんですけどね。
……この前読んだ『ソラリスの陽のもとに』が
良すぎて期待しすぎちゃったかも。

砂漠の惑星砂漠の惑星
スタニスワフ レム Stanislaw Lem

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2010年8月19日木曜日

ホントのことってホント?

『インディヴィジュアル・プロジェクション』(阿部和重)読みました。

ぼくが日本映画学校の
卒業生だってことは前にも書きました。
そうです。作者の阿部和重さんと同じです。
まったく面識はありませんが……。

さて、
その映画学校を卒業したすぐあとくらいの時期でした。
仲間の一人から、夜中に電話があったんです。
(以下、個人情報的にあれなので、仮名にしています)

「お前、カヤマのうちの近くだろ、
ちょっと様子見に行ってくれよ。
さっき電話で話したら、なんだか落ち込んでるみたいで、
今にも屋上から飛び降りるって感じでさ」

それを聞いたぼくは、
もちろん急いで駆けつけようと思ったのですが、
でもなんだか一人で行くのは怖くて、
近所に住んでいたイノウエという同じ仲間に電話して、
そいつをクルマで拾って助手席に乗せ、
二人でカヤマの家に行きました。

行ってみると、
カヤマが落ち込んでいたのはたしかですが、
ぼくらと話しているうちに次第に落ち着いてきて、
最後には笑顔も戻り、ぼくらも安心して帰っていきました。
ようするに、ちょっと寂しかっただけってことでした。

それから10年、いや15年後くらいたっていたでしょうか。

カヤマとイノウエと飲む機会があったんです。
昔話に花が咲き、飛び降り未遂事件にも話がおよびました。
するとイノウエはぼくに向かって、

「お前はすごいよ。無茶だけど友だち思いっていうかさ。
信号待ちしてる俺の横をブレーキもかけずにすり抜けて、
すっ飛んでいったからな」
と、笑いながら話すのです。

そう、イノウエとぼくでは、
微妙な部分で記憶が違っていたのです。

イノウエは、
ぼくから電話をもらったあと、自分のクルマで駆けつけ、
赤信号で止まっているとき、ぼくが追い抜いたと。

そしてぼくは、
ぼくのクルマの助手席にイノウエを乗せていったと。

それぞれの情景は、二人とも鮮明に思い浮かべられるんです。

だから二人とも、「そうじゃないよ、違うよ」を繰り返し、
結局、どっちが真実なのか、未だに判明していません。

きっと、どっちもが本当だったんでしょうね。

ということで、
この『インディヴィジュアル・プロジェクション』。
ぼくの記憶とイノウエの記憶とが重なり合ったり合わなかったりで、
ワケわからないのと同じように、
ぼくにとって、とってもワケのわからない小説でした。

ちなみに仮名にした名前は、
この小説の登場人物の名前を拝借しました。あしからず。

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2010年8月18日水曜日

順番は、池波→司馬でいきなさい。

『鬼平犯科帳3』(池波正太郎)読みました。

今から十数年前のことです。
とっても威張り屋さんの社長とお話したことがありました。

その社長は
「お前は読書量が足りないからダメなんだ」みたいなことを言って、
読むなら現代小説じゃなく、
時代小説や歴史物を読めとさとしてくれました。

そして「時代物で、読んだ本はあるか?」と聞いてきたので、
ぼくは、司馬遼太郎さんを少しと答えました。

すると、
「少しじゃダメだぞ、何を読んだ?」
「えーと、『龍馬がゆく』とか『項羽と劉邦』とか、
あっ『人斬り以蔵』も面白かったです」

「池波先生はどうだ?」
「池波……? あっ、すみません一冊も……」

「それは逆だろ! 池波先生から入って、
司馬遼太郎にいくべきだろ? 違うか?」
「はい……すみません」

「ワシは、まだ司馬遼太郎まではいってない
池波先生が途中だからな」

今年に入ってようやく1月のはじめに、
池波先生の鬼平シリーズ1巻目に触れたぼく。

10年以上の時を経て、威張り屋さんの社長のいうことを聞き、
さらに半年以上かかってやっと3巻目を読んだってことです。

なるほど、池波作品は娯楽色が強く、
司馬作品も娯楽色はあるのですが、
イメージ的に歴史のお勉強モードが入っている。
だからあの社長は読む順番はコレだと考えていたのでしょうね。

まだ3巻しか読んでないけど、
鬼平シリーズは巻が進むに従い、
エンタメ性が濃くなっていくような気がします。

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2010年8月13日金曜日

リファイバーフレック

『さようなら、ギャングたち』(高橋源一郎)読みました。

何を今さらっていわれそうですが、
読みました。高橋源一郎さんのデビュー作。

いやいや、わけわかりません。

どれくらいわからないかというと、
昔ぼくが書いた詩みたいなものと同じくらいわかりません。

仕方ないので、その詩みたいなもの以下にコピペしときます。


『リファイバーフレック』

ぼくは、リファイバーフレックが欲しい

だって、みんな持ってるんだもん

クラスで持ってないのは

雄太と畠山くんとウメーダァーと

太郎と隆ちゃんと、ぼくだけ

だから、ぼくはリファイバーフレックが欲しい

すごいんだからリファイバーフレックって

ピカピカでガンジョウですっごく重い

だから、みんな持っている

リファイバーフレック

リファイバーフレック

ねぇ、リファイバーフレック買ってよ

パパは、リファイバーフレックを持っていない

だから、会社で働いてる

持っていれば、きっと働かない

楽しくて、ずっーと、ずっと、夢中になれて、

涙だって、出てきちゃう

パパは知らないだけなんだ

パパに教えても、ちゃんと聞からないから

グニョグニョで、真っ黒で、ふわふわ

だから、みんな持っている

リファイバーフレック

リファイバーフレック

ねぇ、リファイバーフレック買ってよ

ママは、リファイバーフレックを持ってる

だから、あなたにはまだ早いと言う

そんなのずるいに決まってる

ポチもタマもミケもシロもクロも

クッピーもホヨーもみんな持ってるじゃないか

ママがパパを殴れるのは

リファイバーフレックを持ってるからだ

ギザギザでベトベトでいい匂い

だから、みんな持っている

リファイバーフレック

リファイバーフレック

ねぇ、リファイバーフレック買ってよ

さようなら、ギャングたち (講談社文芸文庫)さようなら、ギャングたち (講談社文芸文庫)
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2010年8月11日水曜日

醸造しないとね。

『マルドゥック・スクランブル
—The First Compression 圧縮』(冲方丁)読みました。


ぼくは今の日本映画学校ってトコの卒業生です。
そして映画学校を卒業してすぐのころ、
テレビとか映画とかの助監督をやってました。

そのころノーギャラでやった仕事に、
ぴあのフィルムフェスティバルで一等賞を
とった監督の作品がありました。

今もテレビドラマや映画で活躍している小松隆志監督の『バス』。

ぴあがスポンサーになっているとはいえ、
半分アマチュアの映画で、しかも監督とは年齢も近い。
なので、監督にはため口で言いたい放題って感じで接していました。
ごめんなさい小松さん。それ以来まったく交流はないけど。

この小松さんは、小説、映画、お芝居などの
いいとこドリがすごく上手な人で、
面白いって感じるとすぐ自分の作品に取り入れちゃう。

で、ぼくはといえば、ため口の言いたい放題なので
小松さんに「パクってばかりで面白い?」みたいなこと言っちゃいます。

それに対して真面目な小松さんは
「パクってはいるけど、ママじゃない。
自分の中に取り込んで、咀嚼して、発酵するまで溶かして、
それから使っている」とカッコイイ反論。

はい。
やっと本題の読書感想文に入れます。

この『マルドゥック・スクランブル 圧縮』は、
まさしく小松さんの言った
「パクってはいるけど、ママじゃない」って作品です。

読んでいると、
ぼくが今まで読んだり観たり聞いたりした
あの場面、この場面が重なって頭の中に浮かんできます。

上手いんですね、この冲方丁さんって人も。
咀嚼して発酵するまで溶かして使うのが。

面白いモノをそのまま羅列したって、面白いモノになるわけない。
やっぱ、つくる人の中で醸造しないとね。

あっ! でもこの『マルドゥック〜』、
読み終わって知ったのですが、実は続き物であと2巻あるみたいなんです。
今まで書いた感想は、全部読み終わってからがよかったかな。

まぁいいか。

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2010年8月3日火曜日

次の読書は3年後

『魔性の子』(小野不由美)読みました。

好きな作家の京極夏彦さんが、
小野不由美さんの『屍鬼』って作品のパロディを書いていて、
このパロディはそれなりに笑えたので、
ほんじゃあ本家本元もって思い『屍鬼』を読んだら、
なんとまぁ、とてつもない怖いお話。

小野不由美さんが、
スティーブン・キングの『呪われた町』が好きで、
そのオマージュとして書いた吸血鬼の話でした。

そんなつながりで、一番おおもとの『呪われた町』を読んだら、
小野さん作品のほうが、だんぜん怖くって、
うわっ、この人すごいって思ったのが、3年くらい前。

それなら、小野さんのラインナップを
つぶして行かなきゃダメだろうと、
手に取ったのが『黒祠の島』って作品でした。

でも、『屍鬼』にはかなわなかった。

それでちょっとめげて、
以降、小野さん作品に触れてなかったんです。

そして今、やっぱもうちょっと読んでから
判断しようかなって感じ始め、読んだのがこの『魔性の子』でした。

でも、やっぱり……。
『屍鬼』が上でした。

つくった年代順に並べると、
『魔性の子』『屍鬼』『黒祠の島』になるようで、
経験を積み上げるに従って完成度の高い作品ができるわけではないのかな、
なんて思っちゃいました。

とはいえ、人には好みってモンがあり、
どれが一番いいのかなんてのは、人それぞれなんですよね。

まぁそれでも、とりあえずぼくの場合、
次に小野不由美さんの作品に触れるのは、3年後くらいかな。

結局、今回も作品の内容には触れてないけど、まっいいか。

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2010年8月1日日曜日

いつかは読破します。

『現代文訳 正法眼蔵1』(道元著/石井恭二訳)読みました。

高村薫さんの『太陽を曳く馬』を読んで刺激を受け、
いつかは読破したいと思っていたこの本。
道元という人が残したそのままの原文ではなく、
やさしい「現代文訳」ってところが、ご愛敬です。

そうはいっても、これでもぼくにとっては十分難解です。

いつもの読書よりは、かなり時間をかけて読んだつもりですが、
終盤にさしかかるまでの5分の4は、1割も理解できませんでした。

残り5分の1ってところで、
ようやく内容が概念的なものじゃなく、具体的な出来事に即した話になってきて、
なんとなくイメージを浮かべながら読み進めることができました。

難しい内容を、誰にでも理解できるような
平易な表現に変換して見せてあげるのが、ぼくの使命だ、
みたいな気持ちで本づくりの仕事をしていますが、
やはり、言葉の持っている伝達力には、限界があるんだなって感じます。

時間という軸を含めると、この世界は四次元ってことになるそうですが、
その四次元の世界に住んでいる人には
五次元の世界は絶対に理解できない──そんな感じでしょうか。

この本、全5巻のうちの1巻目です。
わからないなりにも、少しずつ読み進めていこうと思ってます。
きっと、なんかあるでしょ。


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道元 石井 恭二

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