2013年6月26日水曜日

『遠い山なみの光』(カズオ・イシグロ)読みました。

ワクチンっていうのは、
病気にかかる前に、
その病気のもとを身体の中に
入れ込んでおくモンですよね。
症状が出ないように、
弱くした病原体とかウィルスなんかを
注射したりする。

それをやっておくと、
身体がその病気野郎の顔を覚えるから、
次に遭ったときには
「あっ、この野郎っ、入ってくんな!出てけ!!」
って追い出すことができる。

予備知識が与えられているから、
即座に拒絶の反応ができちゃうんですね。

で、この『遠い山なみの光』。

ワクチンの作用と同じように、反応できちゃいました。
といっても、
拒絶の反応じゃなく、正反対のウェルカムの反応。

前に書いたように、
カズオ・イシグロさんの小説はこれが3冊目で、
以前読んだ2冊がとてもよかったから、
この作品も、すんなり受け入れられました。

ただ……
その2冊のワクチン接種がなかったら、
ウェルカム反応が起きていたかどうかは疑問なんです。
この『遠い山なみの光』を最初に読んでいたら、
もしかしたら、
そんなにはまってはいなかったかもしれません。

これからイシグロ作品を読んでみようかなって
思う人がいたら、
ぼくにワクチン的な作用をもたらした
『日の名残り』とか『わたしを離さないで』
とかから始めるのがいいかな。

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カズオ イシグロ
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2013年6月25日火曜日

『ふわふわの泉』(野尻抱介)読みました。

そんなに大ファンってわけじゃないけど、
ちょこちょことSFの作品は読みます。

でも、今まで読んだものは、
どれも重たくてなんだか深刻なんです。
『2001年宇宙の旅』にしても『1984年』にしても、
小松左京さんにしても、
もしかしたら星新一さんにしても。

SFのジャンルを隅から隅まで
読んでいるワケじゃなく、偏った読み方を
しているからかもしれないんですが……。

だから心のどっかで、
SFで軽いのを求めていたのかもしれません。
軽いっていっても、単に軽いだけじゃなく、
軽くても深いのが欲しい。
ないものねだりで、わがままちんです。

でも、この『ふわふわの泉』。

タイトルのとおり、軽い。軽いのに深い。
いやいや、ぼくが欲しかったどんぴしゃのSFでした。

でもね、自分勝手で飽きっぽいぼくは、
もう少し時間がたつと、
「浅いのに広いのが読みたい」なんて、
だだこねるんですよ。きっと。


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野尻 抱介
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2013年6月24日月曜日

『憤死』(綿矢りさ)読みました。

コピー用紙5枚くらいの資料を渡して、
「これを600文字にリライトしてください」
って感じの仕事を、
ライターさんにお願いすることがあります。

このとき、
少し手抜きするような人に作業を頼んじゃうと、
わけのわからない日本語になって納品されてきます。

そんなときは、
「最初から自分でやれば良かった」
と後悔しながら、手直しするんです。

この手直し作業をしながら思うのは、
「理解してないな」ってこと。
ライターさんが、
最初に渡した資料の内容を理解せずに、
ただ切ったり貼ったりしただけで、
指定の600文字に仕上げてる。

元ネタを良く噛んで飲み込み、胃腸で消化して、
自分の身体の一部として取り込んでから、
脳みそを通して吐き出さないと、
やっぱ、人が読んで
ふむふむと感じられる文章には
ならないと思うんですよね。

で、この『憤死』。

ぼくは、少しふむふむ度が足りないな
……と感じてしまいました。
胃腸で消化したくらいで、
まだ自分の身体の一部になっていないネタを、
吐き出しちゃったような……。


憤死
憤死
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綿矢 りさ
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2013年6月21日金曜日

『ローマ人の物語(2)ローマは一日にして成らず(下)』(塩野七生)読みました。

本屋さんで、
その本を買おうと目星を付けていたのに、
「あっ、京極さんの新刊が出てるじゃん!」
と平積みの棚に心を奪われ、
すっかり最初の目星本を忘れちゃったり、

「今日はその本だけを買うんだ」
と本屋に行きかけたところで、
急に携帯で呼び出され、
結局本屋さんに行けなかったり、

そんなこんなしているうちに、
なんでその本を読みたいと思ったのかすっかり忘れ、
それでも、書評とかで見かけるたびに、
「今度、読も」って思い出す。

それが、この『ローマ人の物語』シリーズなのでした。

そして今回、シリーズ2冊目を読んで、
「なんで読みたかったのか」を思い出しました。
昔、中堅企業の社長さんたちを
続けざまにインタビューしたことがあったんですが、
そのお偉方が口を揃えて
「良い本」だと言っていたからなんです。

読みながら、ぼくは、
ところどころで「ふむふむ」ってつぶやいてました。
この本、経営というか組織というか、
集団をどうやったらうまく動かせるかのお手本が満載なんです。
数千年前のお話なんですけどね。

で、ぼくは、集団を上手に動かそうなんて
大それたことはしたくないので、
とりあえず今はこの2巻目で
打ち止めにしときます(シリーズはたしか数十巻…)。
でも、つまらなくないんですよ、
面白いんですよ、この本。


ローマ人の物語 (2) ― ローマは一日にして成らず(下) (新潮文庫)
塩野 七生
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2013年6月18日火曜日

『聖なる怠け者の冒険』(森見登美彦)読みました。

「あれ? おかしいな。美味しくない。
 味、変わった?
 通い詰めていた頃は、
 毎日でも食べられると思っていたのに……」

数年ぶりに行った店で、
昔、大好物だったメニューを、
よだれこらえながら頼んでみて、
食べてみたら「えっ、違う!」って感じたこと、
何度かあります。

変わってしまったのは、
その店の味なのか、自分の味覚なのか。
当時と現在のメニューを
同時に食べ比べることができれば、
どっちが変わったのか、はっきりするんでしょうが、
料理は消えモノ、そんなことはできません。

で、この『聖なる怠け者の冒険』。

おかしいんです。
森見さんの描くこの世界、大好物のはずだったんです。
それが、今回は美味しく感じない。
作品自体の味が変わっちゃったんでしょうか。
それともぼくの味覚が変化しちゃったんでしょうか。
幸い、消えモノの料理とは違い、
本はいつまでも同じモノが残っています。
だから大好物だった作品もそのまま読み返すことができる。
それが面白かったら作品自体の変化、
つまらなかったら味覚の変化ってことですよね。
本棚あさって、探そうっと。

聖なる怠け者の冒険
聖なる怠け者の冒険
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森見 登美彦
朝日新聞出版 (2013-05-21)
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2013年6月12日水曜日

『謎の独立国家ソマリランド』(高野秀行)読みました。

法律の文章もかなりのモンだけど、
もっとすごい文章があるの知ってます。
特許の文章です。

公開されている特許を検索できるサイトがあったんで、
適当に番号を入力して出てきた文章を
以下にコピペしてみますね。
(特許公開2013-110718ってヤツで、
 京セラさんが出した特許らしいです)
(どんなにすごいかは最初の数行でわかると思うので、
 全部読まなくてもいいです。中略にしなかったのは
 これが1文だってことを言いたかったからです)

「撮影部を備え、動画を撮影できるカメラ機能付き機器において、
 表示部と、音声を出力するための音声出力部と、操作入力部と、
 前記動画の録画が開始された後の所定のタイミングで、前記音
 声出力部による警報音の出力を中止するための所定の操作を促
 す通知を行うよう前記表示部を制御する通知制御部と、前記通
 知に応じる前記所定の操作が前記操作入力部を介して入力され
 ない場合、前記警報音を出力するよう前記音声出力部を制御す
 る警報制御部と、を備える、ことを特徴とするカメラ機能付き
 機器。」

特許の文章ってどれもこれも、こんな感じなんです。
自動翻訳機能で外国語を訳した文章のほうが、意味わかる。
はてさて、これでいいんでしょうか。
もうちょい、頭いい伝え方ってあるんじゃないの。

で、この『謎の独立国家ソマリランド』。

著者のプロフィールに、
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、
 それを面白おかしく書く」ってありました。

どんなことでも「面白おかしく書く」→ 大賛成です!
そんでこの本、とんでもなく面白おかしかった!
そう、これがホントの頭のいい伝え方なんだと思います。
特許とは全然関係ないんだけど、
特許の文章、この本を見習って
なんとかしたほうがいいと思います。



謎の独立国家ソマリランド
高野 秀行
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2013年6月11日火曜日

『日の名残り』(カズオ・イシグロ)読みました。

10年、20年ぶりに再会する同窓会で、
「じつは○○ちゃんのこと、好きだったんだよな」
と、今さらながら告白し、
「えーっ!? なんで言ってくれなかったの」
と、半分本気、半分社交辞令の返事を返す
──そんな光景は、結構ありふれてて、
ちょこちょこ見かけます(ぼくだけ?)。

この彼女の半分本気の答えの中には、
「もし、この人と付き合うことになっていたら、
 今の私はどうなっていただろう?」
みたいな想像があり、
今さらながら告白した彼の中にも
「なんでコクらなかったんだ、俺!
 もしかしたら、この子と一緒に青春を
 過ごせたのかもしれないのに!!
 そしたら今の俺は違う俺だったのかも……」
みたいな妄想が浮かんでます。

うわっ、しまった。
この話、今回読んだ『日の名残り』と
まったく関係なかったのでした。ごめんなさい。
ぼくの想像、妄想でした。

カズオ・イシグロさんの本、これで2冊目、よかったです!
3冊目いきます!!


日の名残り (ハヤカワepi文庫)
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2013年6月10日月曜日

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹)読みました。

なんだか胃のあたりがしくしくした感じになって、
ふぅーって小さいためいきを
つきたくなるようなときって、ありますよね。
人恋しいっていうか、もの哀しいっていうか。

季節外れだけど、夏が終わりそうで
「あれ、もう秋かな」なんて思ったときとか、
映画やテレビで、べただけど
純粋に恋愛するカップルの姿を観て
感情移入したときとか、
学校帰りに友だちと別れるとき、
どうせ明日も会えるのに、
妙にさびしい気分になっちゃったときとか。
(学校帰りってのが、おじさんになっている
 ぼくの年齢にはそぐわないけど。
 でも今現在だと友だちと別れるときは、
 たいてい酔っ払っているので、
 しくしくは感じないんです)。

で、この『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。

1箇所だけなんですけど、
しくしくを感じちゃいました。
そのしくしく部分は、とってもよかったです。

ってことで、次回作に期待かな。


色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
村上 春樹
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2013年6月3日月曜日

『遠野物語remix』(京極夏彦/柳田國男)読みました。

ボディソープにシャンプー、リンス。
うちでは、それらを使い切ると、
ボトルをそのままに、
詰め替え用を注いで補充してます。
経済的にもお得でエコなんだそうです。

その詰め替え作業、
なぜか、ぼくがやることが多いんです。
4人家族で髪の短い(薄いともいう)男子はぼくだけなのに、
中身のなくなるタイミングは、たいていぼくのとき。
わが家の七不思議の一つです。

んで、その詰め替え作業。
袋には「手で切れます」と書いてあります。
でも、お風呂で水に濡れると、
手が滑って、なかなかうまく切れない。
仕方ないから無理矢理ぐりぐりと力任せにねじ切ると、
切り口にビニールが絡まったようになってしまい、
ちょろちょろとしか出なくなる。

そこで、思い切り絞り出そうとすると、
勢い余ってボトルから注ぎ口が飛び出してしまい、
そこらがシャンプーだらけになっちゃう。

「手で切れます」なんて中途半端なこと
書いてくれるから、あたふたするんです。
何か道具を使わなきゃ切れないようになってれば、
あきらめもついて、
「まあしゃーねーな、そういうモンだからな」と納得し、
「ハサミ持ってきてー」と風呂場から叫んだりできるんです。

で、この『遠野物語remix』。

原作を大胆に再編集っていわれてるけど、
ちと足りないかなって思っちゃいました。
原作の匂いを残すくらいで、
どばーっと京極さん色に染めて欲しかった。
そうすれば、原作のファンもあきらめがついて、
「まあしゃーねーな、そういうモンだからな」と納得して、
ほかのもっと面白い京極本に手を伸ばしていったんじゃないかな。


遠野物語remix
遠野物語remix
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京極 夏彦 柳田 國男
角川学芸出版
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