2010年11月25日木曜日

記事は記者さんの作品です。

『梅棹忠夫 語る』(小山修三)読みました。

10年以上昔のことです。
映画監督の大林宣彦さんに、
記事をつくるためインタビューをしました。

人生についてとか、やさしさとは何かとか、
ためになるお話をたくさんしてもらったような記憶があります。
でも具体的に何を語ってもらったのかは、おぼろげ。

なんですが。

一つだけはっきりと覚えている言葉があるんです。
それは、「大林宣彦 語る」みたいな記事をつくったあとで、
原稿をチェックをしてもらいたいとお願いしたときの返事。

「記事っていうのは、
僕の語りおろしという形態をとっていようがどうであろうが、
それを書いた記者さんの作品なんだよね。
だから、僕は明らかに事実関係が間違っているような
場合じゃなければ、修正は入れませんよ」

ぼくがこの言葉を覚えていたのは、やっぱ仕事柄なんでしょうね。
「修正は入れません」と言われるのは、
一方でとってもありがたく、一方でとっても怖い。
全部お前の責任だからな!って宣言されるってことだから。

そう、インタビュー記事は、
しゃべったこと全部を一字一句文章にするわけじゃないんです。
話してもらったことのニュアンスだけをくみ取って、
その意図にぴったり合うような表現に変えちゃう。
しゃべったママでは意味も通じないし、
へんてこな文章になっちゃうって場合がほとんどだからです。
 
で、この『梅棹忠夫 語る』。

今いったような作文作業はしているだろうし、
順番も入れ替えてたりして、本をつくっているのだと思います。

でも、ぼくは「しゃべったまま」って感じがしちゃいました。
頭の悪いぼくには、もうちょっとまとまったつくりが必要なんです。

この本を読んで、
梅棹さんって人はとても面白い人だってわかったけど、
その面白さを実感するには、本人の著書をよむべきなんでしょうね。
ごめんなさい。ぼくはまだ一冊も読んでません。

梅棹忠夫 語る (日経プレミアシリーズ)梅棹忠夫 語る (日経プレミアシリーズ)
小山 修三

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2010年11月22日月曜日

素晴らしい友だち

『想い雲』(高田郁)読みました。

仮面ライダー1号、2号に熱狂したので、
子どもながら「V3なんてちゃんちゃらおかしいぜ」といいつつ、
がぜん引き込まれていった真ん中ジャバラ顔の一文字隼人。

『ゴッドファーザー』があまりにもよかったので、
「あれを超えるものは、簡単にはつくれないでしょ。
まぁ、あまり期待しないでおくほうがいいな、きっと」と思いながら
『ゴッドファーザー・パート2』を観たときの衝撃……。

続編、シリーズ物は、いつの間にか、ぼくの中で
「良い方向に期待を裏切ってくれる素晴らしい友だち」
という地位を占めるようになっていました。

だから逆に、
シリーズ物の1作目を読んで、
それほどでもなかったときにも、
2作目や3作目に手を出すことはママあり、
たいていは成功します。
例えば、池波正太郎の『鬼平犯科帳』とかです。

で、この『想い雲』。

シリーズ3作目です。
これを読み継いできたパターンは、
ぼくの中では珍しい感動グラフの動きを見せていて、
『鬼平犯科帳』パターンと『ゴッドファーザー』パターンを
組み合わせたものになっていました。

まぁ簡単にいうと、
1作目がものすごく良くて、
2作目はそれほどでもなかったってこと。

2作目がそれほどでもないのに、
3作目を読んだのは、
シリーズ物が「素晴らしい友だちの地位」を占めているから。

で、どうだったのか。

はっきりいうと、だんだん、つまらなくなってきちゃいました。
なんでかわかりません。
たぶん、ぼくの読み方が悪かったんだと思います。
というか、ちゃんと姿勢を正して読んでいないのだと。

登場人物も、文体も、主人公にいろんな苦難が立ちふさがる展開も、
なにも変わらないんですけどね。

でもなぜか、入っていかない。
やっぱ、これはぼくのせいでしょ、きっと。

ということで、シリーズ物の読み継ぎパターンが
イレギュラーになっていますが、
すでに4作目が本屋さんに並んでいるってことなので、
買ってきます。

やっぱ、「素晴らしい友だちだった」ことを実感したいので。

想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)
高田 郁

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いとも簡単に「違うよ」

『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く 』(藻谷浩介)読みました。


「経済のしくみがよくわかる本」みたいなタイトルの本を、
何冊かつくったことがあります。

とはいっても、
ぼくは経済学者じゃないし、大会社の経営者でもないので、
いろんな本を読みあさって、そこからエッセンスを抽出して、
難しい言葉をかみ砕いて書いたもんです。

んで、たいていは専門家っていわれる大学教授とかに
目を通してもらって、いわゆる監修作業をした上で本になります。
だから、独りよがりの間違ったことは書いてないよってことです。

そんな本の中に書いていたのは、
世間一般に「経済の基本」っていわれていることでした。

景気っていうのは、
波があって不景気の次には好景気がくるようになっているとか、
バブル景気が起こったのは、
円高不況の対策で公定歩合を引き下げたのが原因だったとか……。

で、この『デフレの正体』って本。

ぼくが、ああでもない、こうでもないと
苦労して調べて書いてきた経済の基本を、
いとも簡単に「違うよ」っていってのけています。

しかも、とても論理的に。
さらに、たぶん経済学のことなんか何にも知らない人にもわかりやすく。
学問っていうか、社会の常識っていうか、
そんなモンは、簡単に壊れたりつくられたりするもんなんですね。

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
藻谷 浩介

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2010年11月15日月曜日

20行はオレのモノ記事

『チア男子!!』(朝井リョウ)読みました。

ぼくが昔、勤めていた会社でのこと。
その会社は、雑誌にある記事みたいな体裁の広告をつくる会社です。
若かったぼくは、その記事広告を書くとき、
会社の事業内容とか経営理念とかと、
自分の意見や人生観なんかを結びつけて内容を構成していました。

「記事冒頭の10行と結びの10行の合計20行分は、ぼくのものだ」なんて
勝手に思い込んで、好き勝手に、正義とは何か、とか、
宇宙の神秘、とか、社会のひずみ、みたいな内容を、
その企業のやっていることに無理矢理こじつけて、
書いていたんです。
それでも、そのやり方はいいよって、
言ってくれる人もいたんですけどね……。

でも、ある日、
とっても上手な原稿を書くことで有名な上司に怒られたんです。

「お前の考えていることなんて、知りたいとは思わん!
読者はそんな独りよがりを求めているワケじゃなく、
純粋な情報を欲しがっているんだ。
ワザにおぼれるんじゃネエ! ええ加減にせー!!」

それでも、やっぱり若かったぼくは、
その上司がいつもは別の営業所にいて、
ぼくのいる部署には年に1度くらいしか来ないのをいいことに、
「20行はオレのモノ記事」をつくり続けていたんですが……。

ということで、この『チア男子!!』。

なんとも……若いです。
デビュー作である前作の『桐島、部活やめるってよ』は、
これが新人なの? と思えるほど、
抑制の効いた表現で、とっても良かったんですが、
2作目のこれは、残念なことに、
へたくそだなぁって感じちゃいました。

そう、ぼくが上司に言われた言葉と
同じような内容を向けたくなっちゃった。

でも、きらきらの部分はあちこちに見受けられます。
小手先のワザにおぼれなければ、
きっとすごい作品が期待できちゃう人ですよ。


チア男子!!チア男子!!
朝井 リョウ

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2010年11月10日水曜日

ひょっとしてネタバレしてる?

『一九八四年」(ジョージ・オーウェル/高橋和久訳)読みました。

生来の楽天的な性格というか、怖がりというか、
嫌なことからは逃げて回る卑怯者というか、
まあいろいろ言い方はあると思いますが、
ぼくは物語はハッピーエンドじゃないとイヤです。

せっかく時間をかけて本を読むのだったら、
読後は、あー面白かった、すっきりしたと言いたいじゃないですか。

そんなんですから、
ちょっと前に大ベストセラーになった
村上春樹の『1Q84』の1冊目と2冊目を読んだときには、
「ひょっとしてこれって死んじゃうってこと?
はっきりは書いてないけど、そうなの?
それ、やめようよ」
と密かに感じていました。

そんなふうに思っていたら、
やっぱこの本には続きがありますってんで、3冊目が出て、
それがハッピーエンド的な終わり方だったんで、あー良かったと。

この時間差攻撃は、なんとも不思議な感覚でした。

で、本家本元の『一九八四年』を読んで、
「あーそうなんだ、これと同じ手法とったんだ」と
その時間差攻撃のワケを理解できちゃったんです。
(たぶんぼくの勝手な解釈ですが……)

村上春樹も本家もどっちも読んでいない人は、
なんのことやら、きっとわからないでしょう。
この『一九八四年』がハッピーエンドなのかそうじゃないのかも、
ここまで書いたぼくの文章からはわからないでしょう。

よかった、ネタバレにならないで。

村上春樹と本家本元の読み比べ、オススメです。


一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
ジョージ・オーウェル 高橋和久

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2010年11月4日木曜日

あるがままを受け入れる

『現代文訳 正法眼蔵4』(道元著/石井恭二訳)読みました。

存在することの意味、生きるとは何であるか。
もしくは、仏教ってどんなものか、悟りの境地ってどんなものなのか。
4巻目まで読み通してきた正法眼蔵からは、
それら哲学的、宗教的な答えを、
一つたりとも見つけられなかったぼく。

というか、
難しくてわからなかったぼく。

全5巻シリーズになっているこの現代文訳は、
実はこの4巻で本編が終わってしまいました。
5巻目は、本編にもれたものを集めた拾遺モノと
新しく書き加えられたモノをまとめた本。

なので、ここまでの本編は、
たぶん一般的にいう読書とはいえず、
単に並んでいる文字を眺めていたといってもいいでしょう。

ですが!

この4巻では1カ所だけ、きちんと理解でき、
しかも感動した文章がありました。

それは、藤沢周さんという作家が書いた解説文。

解説といっても本の内容を説明しているわけじゃなく、
自分のことをエッセイみたいに語っている文章です。
もしこれが本の内容を説明しているものだったら、
きっとまたぼくのふにゃふにゃ頭では理解できず、
感動の「か」の字も出てこなかったと思います。

その解説文には、
藤沢さんが幼少のころ、父親に怒られた思い出が記されていました。

きれいな桜を見て
「きれいだな、桜はなんで毎年咲くの」と父親に聞いたら、
「そんなこと疑問に思うんじゃない」と。

前年までは、言葉もおぼつかない幼児だったので、
疑問など言葉にせず、
きれいな桜を、ただそのまま受け入れていた。

それが言葉を覚えたがために、疑問を口にするようになった。
父親は、息子の心が、あるがままを受け入れる姿勢を
無くしてしまったと嘆き、怒ったのだろうと回想していました。

そして、この正法眼蔵の世界は、
言葉を知ってしまった人が、言葉を持ちながらも、
すべてをあるがままに受け入れる方法を
示していると表現していました。

へなちょこ頭のぼくには、
本編を読んでそこまで理解できなかったのですが、
この解説文が言っていることはよくわかりました。

ということで!

5巻を買いに行って、
あるがままを受け入れる方法っていうのを探してみよっと。

現代文訳 正法眼蔵 4 (河出文庫)現代文訳 正法眼蔵 4 (河出文庫)
道元 石井 恭二

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