2010年8月19日木曜日

ホントのことってホント?

『インディヴィジュアル・プロジェクション』(阿部和重)読みました。

ぼくが日本映画学校の
卒業生だってことは前にも書きました。
そうです。作者の阿部和重さんと同じです。
まったく面識はありませんが……。

さて、
その映画学校を卒業したすぐあとくらいの時期でした。
仲間の一人から、夜中に電話があったんです。
(以下、個人情報的にあれなので、仮名にしています)

「お前、カヤマのうちの近くだろ、
ちょっと様子見に行ってくれよ。
さっき電話で話したら、なんだか落ち込んでるみたいで、
今にも屋上から飛び降りるって感じでさ」

それを聞いたぼくは、
もちろん急いで駆けつけようと思ったのですが、
でもなんだか一人で行くのは怖くて、
近所に住んでいたイノウエという同じ仲間に電話して、
そいつをクルマで拾って助手席に乗せ、
二人でカヤマの家に行きました。

行ってみると、
カヤマが落ち込んでいたのはたしかですが、
ぼくらと話しているうちに次第に落ち着いてきて、
最後には笑顔も戻り、ぼくらも安心して帰っていきました。
ようするに、ちょっと寂しかっただけってことでした。

それから10年、いや15年後くらいたっていたでしょうか。

カヤマとイノウエと飲む機会があったんです。
昔話に花が咲き、飛び降り未遂事件にも話がおよびました。
するとイノウエはぼくに向かって、

「お前はすごいよ。無茶だけど友だち思いっていうかさ。
信号待ちしてる俺の横をブレーキもかけずにすり抜けて、
すっ飛んでいったからな」
と、笑いながら話すのです。

そう、イノウエとぼくでは、
微妙な部分で記憶が違っていたのです。

イノウエは、
ぼくから電話をもらったあと、自分のクルマで駆けつけ、
赤信号で止まっているとき、ぼくが追い抜いたと。

そしてぼくは、
ぼくのクルマの助手席にイノウエを乗せていったと。

それぞれの情景は、二人とも鮮明に思い浮かべられるんです。

だから二人とも、「そうじゃないよ、違うよ」を繰り返し、
結局、どっちが真実なのか、未だに判明していません。

きっと、どっちもが本当だったんでしょうね。

ということで、
この『インディヴィジュアル・プロジェクション』。
ぼくの記憶とイノウエの記憶とが重なり合ったり合わなかったりで、
ワケわからないのと同じように、
ぼくにとって、とってもワケのわからない小説でした。

ちなみに仮名にした名前は、
この小説の登場人物の名前を拝借しました。あしからず。

インディヴィジュアル・プロジェクション (新潮文庫)インディヴィジュアル・プロジェクション (新潮文庫)
阿部 和重

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