2011年6月27日月曜日

哲学くんも緊張するんだよ。

『神の火(上)』(髙村薫)読みました。

生きるとは何か、人生に意味があるのか
……そんなことは何にも気にならない、
自分の中ではとっくに解決している問題だよと、
仙人のような物言いをしている友だちがいました。

彼は、
人間って口からモノを入れて、尻から出すそんだけのものなので、
意味を考えること自体がおかしい、ヘンだ──と言うのです。

そんな何者にも動じないような
哲学者精神を持っている彼が参加した飲み会があり、
普通に盛り上がって、二次会のカラオケに流れました。

気心の知れた同士だったので、
みんな我先にと曲を入れ、手拍子足拍子のノリノリ宴会です。

でも、しばらく時間が経ってから、
ふと哲学くんの様子を見ると、
なんだか、ぎくしゃくしているというか、
落ち着かないというか、そわそわというか、
とにかくふだんの超然とした哲学くんではなく、
おどおどしたへなちょこな若者の態度だったんです。

どっか、調子悪いの? と聞いても、
「何でもない」と即答するトコはいつも通りなのですが、
やっぱへンです。

そんな哲学くん以外は、いつも通りはしゃいだカラオケも終了。
みんな帰路に向かうとき、ぼくはもう一度、彼に聞きました。

「やっぱ、なんかあったの?」
「いや、たいしたことじゃないんだけど、ちょっと緊張して」
「歌うから?」
「うん、でも、リモコンの使い方間違ったみたいで、
俺の入れた曲、流れなかった」

彼は人前で歌うことに緊張して、こちこちだったというのです。
しかも、リモコンの誤操作で、最後まで一曲も歌えなかった。

それでも、自分の番がいつくるかと、
どきどきして終始緊張を強いられていたんですと。

悟りの極地にいるような哲学くんでも、
カラオケの順番でかちこち状態になる。
……人ってとっても素敵だなって思いました。

あっ、そうそう、この『神の火(上)』も素敵でした。
早く下巻を買いに行かなくちゃ。



神の火〈上〉 (新潮文庫)
高村 薫

新潮社

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