2011年6月20日月曜日

今に見ておれ。

『苦役列車』(西村賢太)読みました。

映画学校に通っていたとき、
短い脚本を書いてくる課題がありました。

その課題作品の中に、
「うわァー面白い!」
と、ぼくをうならせ、

それでも学校側からは何の評価も受けなかった作品を
提出したヤツがいました。

それが誰だったか名前も忘れちゃったんですが……実は。

うろ覚えですが、
たしかその作品は4つの場面からなっていました。

で、どの場面も、
主人公が最後に殴られたり蹴られたりして
倒れているトコで終わっていました。

最初の場面は、たしか学校。

高校生の主人公が、
友だちとつまらないことでケンカをして殴られ、
教室の隅にぶっ倒れ、鼻血を流しながら
「くそー、今に見ておれ……」
と相手には聞こえないようにつぶやきます。
最初の場面はそれで終わり。

次の場面は、夜の街。

サラリーマンになった主人公が、
「お前しかいないんだよ」と女性にしがみつくも、
「やめてよ、気持ち悪い!」と払いのけられ、
よろけて道ばたに倒れ、
その弾みでガードレールに顔をぶつけます。
鼻血を出しながら
「くそー、今に見ておれ……」と夜の街に叫びます。

第3の場面は、酒場。

酒場の出入口がドガシャと開き、
主人公が飛び出してきます。
中から「お客さん、お勘定!」と叫ぶ声が聞こえます。
その前をたまたま通りかかった自転車警官と
主人公が正面衝突。
顔からつんのめって転げた主人公は、
鼻血を流しながら「くそー、今に見ておれ……」と。

そして最後、第4の場面。

薄暗いトンネルになっている地下道みたいなトコです。
小学生の一団がガヤガヤ歩いています。
その途中、悪ガキが「ここお化けがでるんだって」と言いました。
すると皆が一斉に「うわー」と駆け出しました。
駆け出した小学生の1人が、
道に転がっていた空き缶を蹴飛ばしていきます。

その空き缶は、
段ボールを布団に寝ていたホームレスの顔に当たりました。
それが主人公。
主人公は鼻血を流しながら
「くそー、今に見ておれ……」とつぶやきました、とさ。

で、この『苦役列車』。

ぼくをうならせ、
学校側からは何の評価も受けず、
しかもぼくの記憶の中にも名前を残さなかった
誰かの作品のように、面白かったです。

苦役列車
苦役列車
posted with amazlet at 11.06.20
西村 賢太 新潮社 売り上げランキング: 1287