2011年6月30日木曜日

『警視庁草紙(下)』(山田風太郎)読みました。


テレビとか映画とかの助監督をやっていたころ、
先輩から聞かされた話です。
その先輩が過去に使っていた見習い生のこと。

見習いくんは、とにかくまっすぐな子で、
撮影スタッフの誰かに言われたことは、
何の疑問も口にせず従ったそうです。

あるとき、カメラマンがファインダをのぞきながら、
「あの山のてっぺんにある木、邪魔だなぁ」と言いました。

横で聞いていた見習いくんは、
「はい、わかりました」と走っていったそうです。

カメラマンは少し悩んで「まぁ仕方ない」と、
違う山を背景にして撮影を進めました。
まさか見習いくんが、自分の「木が邪魔」発言に対して反応したとは、
思っていなかったようです。

そして、その日の撮影分も終わり、みんな宿舎に戻りました。

撮影隊が宿舎に帰って、食事が始まり、
宴会の様相になりはじめたころ。

みんなに忘れらた見習いくんが帰ってきました。

そう、山のてっぺんにある木を切ってきたんです。
カメラマンは自分が「木が邪魔」と言ったことさえ
忘れていたとのことでした。

別の撮影では、先輩が見習いくんに
「あそこに駐めてある車がなければ、
もっといい絵が撮れるんだよな……お前、なんとかしてこい」
と命じたそうです。

もちろん先輩は、車の持ち主を捜して
移動のお願いをしてこいと命令したつもりでした。

ところが見習いくんは、
「はい、わかりました」と言って走り出し、
その車の屋根に飛び乗って、いつも腰にぶら下げている金づちで
車の屋根を叩き始めたんだそうです。

きっと、きっとぺちゃんこにしたかったんでしょう。
先輩はあわてて見習いくんを止めたそうです。

 見習いくん、はちゃめちゃです。

 で、この『警視庁草紙』も、はちゃめちゃでした。
 はちゃめちゃ、スキです。


警視庁草紙〈下〉―山田風太郎明治小説全集〈2〉 (ちくま文庫)
山田 風太郎
筑摩書房
売り上げランキング: 200115