ぼくは本をつくる仕事をしています。
本づくりの仕事を出してくれるのは、主に出版社さん。
その出版社さんに「どうか仕事をさせてください」という営業をかけるのも仕事のうちです。
自分で考えた企画を持参して、こんな本なら売れますよとか、こんな見せ方をすれば一般ウケしますよとか、口八丁手八丁でなんとか本づくりをさせてもらいます。
この営業活動でよく使うトークが
「そのジャンルの専門家ではありません」という正直発言。
本づくりはプロだけど、経済分野の専門家ではありません、哲学はまったくの素人です、心理学の本は初めてです……。
そうすると相手は少し引きます。
えーっ、そんなヤツに任せて大丈夫だろうか、って。
そこで、ぼくはすかさず過去の例を挙げます。
いくつかある過去例の中でお気に入りの話は表計算ソフトのExcel解説本を書いたときのこと。
これまでExcelの本は7〜8冊はつくらせてもらいました。
でも、その最初の1冊目をつくる前、ぼくはExcelに一度も触ったことがなかったんです。
その本は出版社からの依頼で、どうしてもExcel本をつくって欲しいと頼まれたものでした。
もちろんそのときも正直発言で、
ぼくは「Excelなんて触ったこともありません」と言いました。
そして内心「あんな難しそうなソフトの解説本なんて、できないだろうな」と思っていて、
正直発言をすれば、きっと別の人にその仕事は回っていくだろうと思ったんです。
ところが、その編集者はとても奇特な人で「大丈夫ですよ」の一言。
本づくりのためExcelを初めて起動したとき
「えっ、何このできそこないの方眼紙画面!」と感じたことを今でもおぼえています。
それから勉強に勉強を重ね、何度も操作につまずきながら、なんとか本は仕上がりました。
それが!
評判良かったんですね。売れたんですね。
お陰でその後、何冊もExcel関連の本を書くことになりましたが……。
戻ってきた読者アンケートには、
「他の本を読んでもわからなかったことが、すんなり理解できた」という内容がたくさんありました。
そうなんです。
わからない人がやって、わかっていく過程を書いていく、
もしくは、素人が自分でつまずいてみて、つまずかないようにアドバイスする、
……そんな本だったんです。だから、入門書を買うような読者層に受け入れられた。
えーっと、長くなってしまいましたが、
今回ぼくが読んだこの本(「寝ながら学べる構造主義」)の「まえがき」には、
これまで述べてきた「その分野の素人だからわかりやすい本が書ける」という内容が記されていました。
著者の内田樹さんは構造主義を専門にしているわけではなく、素人だけど書いてみたってことですね。
たしかに、わかりやすい本になっています。いい本です。
でも……本当におこがましいんですが、ぼくらなもっとわかりやすく仕上げられるかな……なんて感じちゃいました。
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