テレビとか映画とかの助監督をやっていたころ、
先輩から聞かされた話です。
その先輩が過去に使っていた見習い生のこと。
見習いくんは、とにかくまっすぐな子で、
撮影スタッフの誰かに言われたことは、
何の疑問も口にせず従ったそうです。
あるとき、カメラマンがファインダをのぞきながら、
「あの山のてっぺんにある木、邪魔だなぁ」と言いました。
横で聞いていた見習いくんは、
「はい、わかりました」と走っていったそうです。
カメラマンは少し悩んで「まぁ仕方ない」と、
違う山を背景にして撮影を進めました。
まさか見習いくんが、自分の「木が邪魔」発言に対して反応したとは、
思っていなかったようです。
そして、その日の撮影分も終わり、みんな宿舎に戻りました。
撮影隊が宿舎に帰って、食事が始まり、
宴会の様相になりはじめたころ。
みんなに忘れらた見習いくんが帰ってきました。
そう、山のてっぺんにある木を切ってきたんです。
カメラマンは自分が「木が邪魔」と言ったことさえ
忘れていたとのことでした。
別の撮影では、先輩が見習いくんに
「あそこに駐めてある車がなければ、
もっといい絵が撮れるんだよな……お前、なんとかしてこい」
と命じたそうです。
もちろん先輩は、車の持ち主を捜して
移動のお願いをしてこいと命令したつもりでした。
ところが見習いくんは、
「はい、わかりました」と言って走り出し、
その車の屋根に飛び乗って、いつも腰にぶら下げている金づちで
車の屋根を叩き始めたんだそうです。
きっと、きっとぺちゃんこにしたかったんでしょう。
先輩はあわてて見習いくんを止めたそうです。
見習いくん、はちゃめちゃです。
で、この『警視庁草紙』も、はちゃめちゃでした。
はちゃめちゃ、スキです。
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