2016年1月29日金曜日

『鬼平犯科帳(21)』(池波正太郎)読みました。



確か中学生のときだと思います。
友だちがケガをしたか、
何かの病気になったかで
入院したことがありました。

そこで、
数人の仲間とお見舞いに行ったんです。

それまで病院へのお見舞いなど
したこともないから、
みんなおどおどと緊張した様子。

でも、一人だけいつもと変わらず、
くだらない冗談を飛ばしながら、
おちゃらけているヤツがいたんです。

みんなが病気の友だちに
「大丈夫か」「早く元気になれよ」
みたいな、
いわばノーマルな励ましの言葉を、
借りてきた猫のような
こわばった表情でやっと口にしているのに、

ヤツだけは、
学校の休み時間と勘違いしているかのように、
大声を上げて笑いながら、

誰それが授業中におならをしただの、
アイツがコクって振られただの、
ソイツが悪さして
先生にゲンコツくらっただの
とまくし立てていました。

するとどうでしょう。
そのおちゃらけ坊主が話すごとに、
入院君の顔色がどんどんよくなり、
もう明日にでも退院できそうな
面持ちに変わっていったんです。

ぼくはそのとき、
人生に大切なのは
「おちゃらけ」で人を笑わすことだ
と知りました。

で、この『鬼平犯科帳21』。

この巻は、
思わずニヤニヤなお話がたくさんありまっせ。



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池波 正太郎
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2016年1月27日水曜日

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹)読みました。


記憶が残るってことがデフォルトなのか、
忘れちゃうのが元々なのか、
どっちなんでしょう。

そんなこと考えてたら
「クレオパトラのオシッコ」
の話を思い出しました。

何かの本で読んだ
うろ覚えの雑学なんですが、

今ぼくが飲んでるお茶の中には、
何千年もの昔、
彼女のオシッコだった水の分子が、
数個だか数十個だか
含まれているようなんです。

なんでも、
そのオシッコは、地面にしみ込むなり、
川に流れて海に行くなり、
やがて雲になって雨になってとかで、
地球上にまんべんなく拡散され、
って循環をしていき、

そんなあれこれを計算してみると、
ぼくのお茶は、やんごとない方の、
かつては身体の一部をなしていた物体
(分子が物体といえるかどうかは知りませんが)
のいくつかが、
構成要素として含まれているようなんです。

んで、これが本当だとして、
さらに「記憶がある」ってことが
モノの本来の機能だとしたら、

お茶を飲み分子を身体に吸収することで、
クレオパトラの経験したことを
分子内の記憶として
身につけられてもいいはず。

だけどだけど、
実際にはそんなことはない。

だから、
忘れちゃうほうがデフォルトなのだ!

はい。記憶力のなさを正当化できました。

で、この『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』。

何年か前に刊行された単行本で読み、
今回、文庫本が出たので、再読しました。

再読ってことは一度読んだってこと。

それなのに、あぁそれなのに。
まったく覚えていなかったエピソードが
特大メガ盛り。
記憶って何なんでしょうね…。



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2016年1月25日月曜日

『鬼平犯科帳(20)』(池波正太郎)読みました。


土曜日か日曜日は、
どちらか仕事を休んで
一家の一週間分の食料を
スーパーに買い出しに行くのが
ルーチンになってます。

といっても、ぼくの役目は
もっぱら運転手と
買い物カートを押すことだけ。

ぼくの押すカートの中に、
必要なモノをひょいひょと
選び入れていく
買い物の主役はカミさんです。

カートを押すとき、
ぼくはカミさんの姿を
見失わないように
付いていけばいいので、
特に何も考える必要はありません。

クルマを運転しているときみたいに、
脇見をしていると
事故っちゃうなんて危険もそんなない。

ボンカレーの辛口と甘口を
何個ずつ買うべきか、
もしくはほかのメーカーの
新商品にすべきかなどと
カミさんが悩んでいる間は、
カートに少し体重を預けて、
その側に立ち止まっていればいい。

さて、
そんなことを長年やっているうち、
ふと気がついたんです。

「このカート押しの時間に、
 本が読めるんじゃないか」って。

思い立ったが吉日。
さっそくやってみました。
文庫本を
カートの手押しバーの上に乗せ、
並んだ活字を追いつつも、
カミさんの姿を視界の端に置いておく。

いやあ、これOKでした。
ちゃんと読めるんですわ。

で、この『鬼平犯科帳(20)』。

1話の長さが、
ちょうど買い物1回分で読み終わります。
奥さんの買い物に付き合って
カートを押している世の旦那さん方、
ぜひ一度お試しください。



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2016年1月22日金曜日

『あと千回の晩飯』(山田風太郎)読みました。



著者が自分のことを語るエッセイを
読んでいるとき、
かなりの頻度で頭をよぎるのが、
「ホントは違うんだろうな」
って印象です。

そこまで露骨に
「それはウソだよ」と思わなくても、

「実際にあったことの表面
 もくしは良い面だけ、お披露目してる」とか、
「いろんなこと気にして、相当つくってる」
とかは、ある。

面白くするために、
話を盛るのはいいんです。

読者に楽しんでもらいたい
っていうサービス精神から
来ているのだろうから。

盛っちゃう話ってたいていは、
自虐的な面白話だし。

でも、そうじゃなくて、
自己保身とか格好つけたいとかが、
におってくるのは、やっぱ引く。

よくよく思い出してみれば、
国会の答弁なんかは、
みんなそんなにおいがするから
真剣に見ないんだろうな。

でも思い出してみれば、
そんな自己保身とか格好つけ臭
(以下、自己つけ臭)
が感じられなかったのが、
劇場型とかいわれた
小泉純一郎さんだったように思えます。

で、この『あと千回の晩飯』。

山田風太郎さんが
自分のことを語るエッセイ集。
自己つけ臭はゼロ、
自虐話の面白盛っちゃう度8割。
超然としてます、風太郎さん。



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2016年1月20日水曜日

『風来忍法帖』(山田風太郎)読みました。



どの作品かは忘れましたが、
スティーヴン・キングさんの小説で、
落ちこぼれのごろつきがいて、
その奥さんが死んじゃう場面がありました。

しょうも無い鼻つまみ者だから、
みんなは「普段の行いが悪いせいだ」
と同情もしません。

そのごろつき自身も、
「あんな女、いなくなって清々したぜ」
なんていきがって、
悲しむ素振りも見せません。

実際、ヤツは、
すぐにほかの女に手を出したりして、
普通の夫婦のように「愛し合っていた」
って感じはまったくない。

それでも、その悪たれ者が、
何かの拍子にふと、
なぜ奥さんと一緒になったのかを
思い出します。

奥さんも悪たれ者と同じような不良娘で、
料理もつくれないし、金づかいも荒い、
いつも飲んだくれている人だったんです。

その性悪娘のことを、悪たれ者が、
「あんときのよがり声が、
 すげーんだ、たまんねーんだ」
とつぶやく。

彼は、何か一つ、いいところがあれば、
それだけでよかったみたいです。

で、この『風来忍法帖』。

たとえ全体が
どんなにつまらないお話であろうとも、
この場面さえあれば、すべて大好きになる。
そんなエピソードがありました。

巨大な一物のために
サイズに合う女性がおらず、
ずっと童貞だった男が、
やっとドンピシャを見つけられた一幕が、それ。
いやいや、もちろんその場面以外も
あきれるくらい面白いんですけどね。



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2016年1月18日月曜日

『うそつき、うそつき』(清水杜氏彦)読みました。


小学生のときの担任の先生が、
いつもと違う授業を
やったことがありました。

先生は、『ジョニーは戦場へ行った』
という映画を見てきて、
とても感激したから、
みんなにも教えたいと言ったんです。

国語だか道徳だかの時間をつぶし、
いつもの教科書を使った授業の代わりに
その映画の内容を
ぼくたちに話してくれました。

ストーリーを聞かせたあと、
何人かの子どもを指して質問しました。

「ジョニーみたいになったら、どうする?」

その指された子どもの一人がぼくでした。

『ジョニーは戦場へ行った』
略して「ジョニ戦」。あの「ジョニ戦」ですよ。

ガビーンと、
どん底に突き落とされたような読後感の映画。
(映画だから「読後」じゃないか、観後感?)

手足がなくなって、
目も見えず、耳も聞こえず、
言葉もしゃべれないで、
ベッドに寝かされてるだけのジョニ戦ですよ。

「エス・オー・エス、ヘルプミー、ドカン」
って1週間くらい耳から離れないあのジョニ戦。

「どうする?」
って先生に聞かれて、

当然ぼくは、
「わかりません」って答えました。

せっかく授業をつぶしたんだから、
そんなドツボにはまるようなお話じゃなくて、
もっと楽しい物語にしてよって思いながら。

で、この『うそつき、うそつき』。

授業には取り上げて欲しくない内容の本でした。


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2016年1月14日木曜日

『宮本武蔵(三)』(吉川英治)読みました。


なぜそんな話題に
なったのか忘れましたが、
友だちと『わらしべ長者』について
議論したことがありました。

そう1本のワラから始まって、
それを交換していくと
いつの間にやら
大金持ちになっている話です。

細かい部分があやふやなので
ネットで調べたら、こんな流れでした。

〈わら〉→〈わらにアブをくくりつける〉
→〈みかんと交換〉→〈反物と交換〉
→〈病んだ馬と交換〉→〈馬が急に元気になる〉
→〈大きな屋敷の主人に馬を貸す〉
→〈主人が戻ってこないので
  最初の約束で屋敷を譲り受ける〉
→〈大金持ちになりました〉

友だちは、
「子ども向けのおとぎ話だから
 仕方ないけど、
 あんなご都合主義の話はないだろう」
という主張。

ぼくは、
「そうかもしれないけれど、
 面白いからいいんじゃない」
という意見。

そんな見解の相違からケンカになり、
殴り合うまでになちゃって、
彼がぼくの石頭をグーで叩いたら
指が骨折してしまい、
彼は入院することになったんだけど、
そこで面倒を見てくれた看護婦さんと
仲良くなり、ついには結婚。
しかも、
彼女の家がとんでもない資産家で、
逆玉に乗った彼は大金持ちになったとさ。

……というのは大嘘だけど、
お話って面白く転がっていけば
いいのかなって思います。

「そんな偶然あり得んだろう!」
ってくらいのご都合主義でもね。

で、この『宮本武蔵(三)』。

あり得んだろ!
ってくらい偶然が一杯です。
楽しいです。
(特に武蔵が出てこない場面)


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2016年1月12日火曜日

『忍びの卍』(山田風太郎)読みました。

意識してジャンルを
より分けているわけじゃないけど、
最近、時代物ばかり続いています。

今読みかけのものを思い出してみても、
次回の感想も、
たぶん時代物になるでしょう。

ほんの4、5年前は、
どちらかというと時代物を
避ける感じがあったのに、
人の好みって変わるモンなんですね。

今、時代物にかたよっている理由の一つは、
池波正太郎さんの『鬼平犯科帳』に
はまっていること。

そのちょっと前は、
笹沢佐保さんの『木枯し紋次郎』が
マイブームでした。

でも、紋次郎シリーズは
絶版になっているのか何なのか、
本屋さんにあまり置いてないんです。

それに比べ、
鬼平はいつ行っても全巻揃ってる。

ぼくが途中の巻を何冊か抜いても、
翌月にはもう補充されてるんです。

この人気の違いって何だろうな。

紋次郎は、
テレビの水戸黄門みたいに
毎回決まったパターンがあって
「かかわりのねえことでござんす」
みたいな決めゼリフがある。

対して鬼平は、
物語の展開は毎回違い、
決めゼリフも見当たらない。

お決まりの型がなく、
いつも違う流れのストーリーほうが、
長く受け入れられるってことでしょうかね。

で、この『忍びの卍』。

山田風太郎さんは、
同じ忍法シリーズでも毎回違います。
すごい!



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2016年1月7日木曜日

『宮本武蔵(二)』(吉川英治)読みました。

「とにかく面白くなきゃダメよ」
と言ったのは、たしか瀬戸内寂聴さん
だったように覚えています。

法律の条文だったか、
テレビの教養番組だったか、
もしくは株式動向を予測する講演会だったか、
ともかく「面白さ」とはまったく関係のない
ものに対するコメントでした。

いろんな分野の識者が、あれやこれやの
うんちく披露の解説をしていて
その中で、
「面白さ」について突っ込んだのは
一人だけでした。

ぼくはその意見に感心して
「そうだよな」
としきりに、うなずいていました。

確かに、
みんなに受け入れられて
いつまでも残っているものって、
「面白い」の要素があるからですよね。

洗濯バサミは便利だから
ずっと使われているのかもしれないけど、
あれもよく見ると「面白い」形をしているし、
瀬戸内さんが訳した『源氏物語』も、
とんでもなく「面白い」話だから
千年以上たっても、
いまだに読み続けられている。

で、この『宮本武蔵(二)』。

作者の死後、
半世紀とかを過ぎると著作権が消えて、
許可なく誰でもコピペしていい
「パブリックドメイン」になるそうですが、
この『宮本武蔵』もその仲間です。

そんで、
この作品も「とにかく面白くなきゃダメよ」と
言われても、びくともしない古典になっています。



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2016年1月5日火曜日

『鬼平犯科帳(18)』(池波正太郎)読みました。


ふと気がつきました。
ぼくは食事の場面をほとんど
書いたことがないんじゃないかって。

仕事でやった新聞や雑誌の記事とか、
インタビューをもとにしたビジネス書とか
監修者つきの実用書とか、
さらには電子書籍で出した短編物語とか、

今まで書いてきたものを
ざっと思い出してみたんですが、
これってものが頭に浮かんでこないんです。

食べるって、毎日欠かさずやることだから、
もうちょっと取り上げてもいいよなぁ。

もともとグルメ志向では
ないからなんでしょうが、
それにしても、
何も浮かんでこないって、
少し情けなくなってきました。

飲食店なんかの紹介記事も
やったことはありますが、
店の雰囲気とか、
メニューの内容などを記すだけで、
食事しているその場の状況は、
描写していない。

これからは、意識して
食べる場面を書くようにしよっと。

だって、この『鬼平犯科帳18』。

美味しそうなんですもの。
特に、
どんぶりの中にとぐろを
巻くように入っている「一本うどん」。
親指くらいの太さのうどんを、
箸で適当な長さに切って、
汁につけて食べたい!



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