2011年9月29日木曜日

『虚言少年』(京極夏彦)読みました。

「誰かに書かされているみたい」ってことを
いってる作家さんは、結構いるようです。

作家のインタビュー記事とか、
エッセイとかを読んでいると、
年に2〜3回はそんな話を目にします。

小説を書いているのは、
確かにその作家さんなんだけれども、
書いているうちに、
自分のつくったキャラクターが勝手に動き出してしまう。

作家さんは勝手に動いてしまった登場人物の動向を、
忠実に描写していく。そんな感じでしょうか。
誰だか忘れたけど、登場人物に踊らされながら書かないと、
面白い作品にならないって言ってた人もいました。

そんで、恐れながら小説もどきを
したためたことのあるぼくも、
その「登場人物が勝手に動く」を体験してます。

ホントに自分が考えてもいなかったことを
やらかしてくれるんです。
そうなると、作者というより、読者です。

こいつら、次はどんな面白いことやるんだろうと、
わくわくしながら読み進め、じゃなかった、書き進められます。
自分でなんとなく考えていたストーリーは、
みごとに裏切られ、そいつらの独壇場。
キーボードを打つ指はぼくのものではなく、
ヤツらのものになってしまうんです。

で、この『虚言少年』。

ものすごく面白かったです。
きっと、作者の京極さんは、
登場人物のガキどもに操られていたに違いありません。

たとえどんなに大御所の人気作家だろうと、
簡単に手玉にとっちゃえるほどのパワーを、
この本の中にいるガキどもは持っていました。

ぎゃはははっ! って、笑えますから、この本。


虚言少年
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京極 夏彦
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2011年9月27日火曜日

隠さないほうがいいみたい。

『ぼくらのサイテーの夏』(笹生陽子)読みました。

自分に都合の悪いことを隠すのは、
人間のサガなんでしょうね。
いろんな報道を見聞きしていると、
毎日のようにそのネタが飛び交っています。

「隠すヤツはとんでもなく悪い」って意見に、
みんなが強くうなずいて、
隠した人とか組織とかをやり玉にあげています。

まあ、それはそうなんだけど、
ぼくもやっぱり都合の悪いことや恥ずかしいことって、
隠したいって思っちゃうこともある。

だから、ほとんどの人が持っている
隠そうって気持ちというか人間の習性みたいなものの
そのものを非難して、
何とかしようって考えるのが
いいのかもしれませんね。

罪を憎んで人を憎まずみたいなモンです。

んで、
大人が子どもに対して
隠そうすることもたくさんあります。

大人は大人なんだから、
子どものように間違ったことはしない。

間違った大人はいないんだ、みたいな感じです。

子どもにしてみれば、
間違った大人の存在なんて百も承知で、
間違っていない大人がめちゃ少ないことも知っている。

それでも大人は悪い大人を隠しちゃいたいんだよね、いつも。
特に児童文学とのか世界では……って、
ぼくは勝手に思っていました。

その固定観念を、
ガシャンと壊したのが、昔読んだ山中恒さん
(『おれがあいつであいつがおれで』とか)
の作品でした。

大人のいやらしさはもちろん、
子どものいやらしさも、
全部ひっくるめて作品に落とし込んでいる。

うわーっ、それってありなんだ!
とひとしきり感心した覚えがあります。

で、この『ぼくらのサイテーの夏』。

とっても正直だなって思いました。
何も隠してないって。

それにプラスして、文章がとっても心地よかった。
やっぱ『空色バトン』で、これだって思ったのは正解でした。



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2011年9月22日木曜日

きれいな本

『ラブオールプレー』(小瀬木麻美)読みました。


すっごい美人の女性とか美男子とか、
きれいすぎる人って、
どこか世間の人から敬遠されているように思えます。

(ぼくはその美形属に含まれてはいません。
それゆえのコンプレックスが多少ありますが……)

知り合いには、
結婚願望を抱いている美女美男が結構いるし、
最近はやりの大勢の人気グループに
すっごい美人っていない気がするし……。

──ということで、きれいすぎずに、
どっかしら汚さとか、ワルっぽさとか、人間臭ささとか、
もろさ、弱さなんかが適度にまじっていないと、
しっくりこないんですね。

これは、容姿だけの問題じゃありません。
だってこれ、本の感想を書いているトコですから。
きれいすぎちゃうとダメよってのは、
本の内容にも通じなきゃいけないんです。

なにせ本の感想を書いているトコですから。

で、この『ラブオールプレー』。きれいすぎです。

でも、中学高校と6年間、
バドミントンに青春を捧げてきたぼくは、
泣いちゃいました。

この本、きれいでした。


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2011年9月20日火曜日

気持ちよく文字を追える謎

『空色バトン』(笹生陽子)読みました。

なぜなのか、いずれはその原因を明かしたいと
考えていることがいくつかあります。

哲学的なこととか、
自然科学的なこととかをいっちゃうと、
いくら書いても足りない気がするので、
とりあえずは、ぼく自身にかかわる「なぜかのか」。

ここで3つほど紹介しちゃいます。
3つの謎です。

第1の謎は、原稿を書くスピード。
ある日は、10本近くの記事をだだーっと書いちゃいます。
そして別のある日は、
1本をやっとのことで仕上げられる程度。

もちろん内容の違いはあるけど、
そんなの問題にできないスピードの差。
それがランダムに生じるんです。
体調の善し悪しとか、締切が迫っているとか、
そんなのにも関係なくです。

なんで、
仕事の効率がとてつもなく上がる日と、
まったく進まない日があるんだろう
──これが1番目の謎です。

第2の謎は、最近始めたランニング通勤のこと。

ある日はとっても快調で、ゴールに着いても、
まだ走れるかな……なんてこと考えたりできます。
でも、別のある日は、
スタートの最初の1歩からゴールまで、
ずーっとへろへろ状態。
いつ倒れるか自分でも心配しながら、
つーか、なにも考えられずに足だけ動いている。

前日飲み過ぎたとか、寝不足だったとか、
そんなのも関係なく、
へろへろと快調のどっちかがやってくる。
(へろへろ状態が8割ですが…)

どうしたら、ずっと快調になるのか
──これが2番目の謎です。

さて、最後の第3の謎。
ある本は、取り立てて興味を引くような内容ではなくても、
とっても気持ちよく読める。
でも、別のある本は、
いくらぼくが好きなストーリー展開でも、
ぜんぜん気持ちよく読めない。

この気持ちよさと悪さの差は、
小説、評論、解説書、翻訳本とかの
ジャンルとはまったく関係なく生じます。

なんで、気持ちよく文字を追える本と、
違和感を感じながらしか読めない本があるんだろう、
っていうのが第3の謎。

この3つの何でだろうは、
なんとか生きているうちに答えを見つけたいと思ってます。

で、この『空色バトン』。
とっても気持ちがよかったです。
著者の笹生さんの本、もっと買って来よっと。


空色バトン
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2011年9月9日金曜日

誰かほめて……

『邪馬台国はどこですか?』(鯨 統一郎)読みました。

ベテランと新人の有名音楽家同士が対談するテレビ番組があって、
その中で新人さんが、ベテランさんに、

「私が音楽を始めたのは、先生(ベテランさん)に
“君、センスあるね”と言われたのがきっかけなんです」
と言いました。

新人さんがセンスあると言われたのは、
昔放映された別のテレビ番組でのこと。

ベテランさんが自分の母校に行って、
そこにいる生徒たちに授業をする番組。

それを聞いたとき、
ぼくは、「あっ、覚えている!あの番組だ」
と即座に思い浮かびました。

何回かの授業の締めくくりに、
生徒たちが一人ずつ自分でつくった曲を
ベテランさんに評価してもらう授業。

センスあるねと言われ、
顔を赤らめている子が、その新人さんだったんです。

覚えていたのは、
ぼくが予想していたことと同じだったからです。
「この子、きっと音楽の道に進むな」って。

やっぱ、人からほめられると、やる気が出ます。
それが超有名な人だったら余計に。
さらにほめられた時期が子供のときだったら余計に。

で、この『邪馬台国はどこですか?』。
この本は、何でも新人賞の応募作品で、
その選にもれてしまった短編に、
ほかの短編を書き足して1冊に仕上げたものだそうです。

受賞作ではないものの
選者の宮部みゆきさんが有望な作品だと認め、
それを励みに作者は短編を書き足していったといいます。

……いいな。ぼくのことも誰かほめてくれないかな。

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2011年9月5日月曜日

面白くないパターンの(1)



『占星術殺人事件』(島田荘司)読みました。


小学校のとき、
なぜか迷路をつくる遊びが流行ったことがあります。

宿題のプリントの裏なんかに、
スタートとゴール地点を描いて、
その間に、ぐにゃぐにゃした道を何本も描いて、
そのうち1本だけスタートとゴールがつながっている落書き。

それをみんなに解いてもらって
「わー難しい!」とか
「なんだ簡単じゃん!」なんて騒ぐ遊びです。

ぼくは、この迷路づくりが得意だったんです。

みんなを迷わせる行き止まりの道を
巧妙にしかけておくとか、
たくさんの分かれ道と2つだけの分かれ道を
バランスよく組み合わせるとか、
とにかくみんなをうならせることを考えて、
るんるんしながら道をつなげていきました。

で、つくるのは得意で面白かったんですが、
友だちのつくった迷路を解くのは、
そんなに面白くなかった。

面白くないパターンの(1)は、
難しくてゴールにたどり着けないもの。

パターン(2)は、
何も悩まずすんなり簡単に
ゴールにたどり着けちゃうもの。
特に(2)が面白くない。

とにかく自分がつくって、
みんなが一生懸命解いている姿を見るのがよかったんですね。

でで、この『占星術殺人事件』。

すごいです。
途中で「読者への挑戦」とかいう
直接読者に呼び掛ける文章が入っていて、
「犯人を当ててごらん」と作者が挑発しちゃったりします。

もちろん、へなちょこ頭のぼくには、
ぜんぜんわかりません。

そう、友だちがつくった迷路をやってるぼくのパターン(1)。
小説なんで、最後には答えがわかるからいいんですけど、
挑発文章を読む段階では、「きーっ」てなっちゃいます。

やっぱりぼくは、つくっているほうが面白いかな。
ぼくのつくったものを、
読む人が面白がってくれるかどうかは、別にして。


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2011年9月2日金曜日

もうちょっと、つくればいいのに。

『道元禅師(下)』(立松和平)読みました。

このネタは以前にもどっかで書いたような気がするんですが、
いつどこで書いたのか、まったく覚えていないので、
使い回ししちゃいます。

友だちの書いた小説のことです。
(ちなみに、どんな内容の小説で、
どの友だちが書いたかも忘れちゃってます。
……トリ頭をなんとかしないと)

その友だちに作品を読ませてもらったぼくは、
「うん、まあ面白いんじゃないの」的な感想を言いました。

確かに作品のできは、そこそこ良かったんです。

でも、1箇所だけ、つくり話っぽくて、
リアリティがない部分があって、それを指摘しました。

「ここだけ、ちょっと、面白くないね。
というか、いかにもつくりましたって感じ。
リアリティが欲しい」

すると、その友だちは、

「この話は、お前の指摘した1箇所以外、全部つくり話。
で、指摘した1箇所はホントにあったこと。
なんでホントにあったことにリアリティがないって言うの」

つくり話は本当ぽくって、本当の話はつくりっぽい。
なぜでしょうね。

それはたぶん、
ぼくの感じ方や友だちの力量じゃなく、
書き物の法則っていうか宿命っていうか、
そんな動かせない何かがあるんだと思います。

ましてやノンフィクションだとわかった上で、
読まされるモノじゃなかったわけで。

で、この『道元禅師』。

一生懸命調べて、
とことんホントのこと書いているんだと思います。

だからなんでしょうね。
ぼくには、ずずーんとくるものがなかった。

道元さんの思想を
そのまま紹介しているような部分が難しくて、
トリ頭のぼくには理解できないってこともあるんですが……。

率直な感想は、
「もうちょっと、つくちゃえばいいのに」でした。


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