「古本を集めている人から聞いたんだけど」
「商売の参考になる」
「参考にはならないわ。古本だもの」
「いずれも紙に印刷する物だから同じと思った」
「じゃあ参考になるかも」
「参考にしたいね」
「参考にならないかもしれないけど言うね」
「お願いするよ」
「重なっちゃうんだって」
「私の下腹の贅肉もいつの間にか重なって、
溝の間を洗うのに相当な時間がかかるようになった」
「車じゃなくジョギングで会社行くのはどう?
ランニング通勤している人、あたし知ってる」
「下腹を洗うのの2倍いや30倍の時間を
走りに費やせば、重なりは消えてくれるだろうね」
「そうそう、知ってる人もお腹出てた。
2倍の時間くらいしか走ってないんだね、あの人」
「重なっている?」
「じかには見てないから、知らないけど、
重なるっていうのは、同じ本を買っちゃうってこと。
そのランニングの人じゃないよ」
「古本の人」
「自分の本棚に昔から入ってるのに古書店に行って
〈やっと見つけた。これが欲しかったんだ〉
とかひらめいて買っちゃうんだって」
「おお、参考になった」
「で、この『クオリアと人工意識』?」
「茂木さんの本は以前には読んでないと思う。重なりはなし。
それと、この会話形式も特に意味はなく、重なりなし。
今読んでいるローレンス・ブロック作品の真似をしたくなっただけ」
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