昔、俳優の田中邦衛さんが、
何かのテレビ番組で、演技のことを話してました。
内容はよく覚えていないんですが、
なぜかその番組中に実演することになったんです。
たしか相手役のアナウンサーか誰かが、
往来で電柱に足をぶつけて痛がっている芝居をやり、
次に田中さんが見本を示すという段取り。
アナウンサーは、
架空の電柱にぶつかり、
ひざを抱えて「いてぇー!」と叫ぶ演技を披露。
それを見ていた田中さんは、
「そうじゃないだろう」という表情で
首を横に振り、交代します。
まずは、普通に数歩あるく。
そこで架空の電柱に、ひざが当たった素振り。
その瞬間、顔をゆがめるんですが、
言葉は何も発しません。
黙って顔をゆがめたまま、
ちょっと足を引きずり、横道に入るような動きで歩き、
そこで立ち止まって、
きょろきょろと周囲に人がいないのを確かめてから、
急にかがみ込み、ひざにふーふーと息を吹きかけながら、
さすりまくったんです。
アナウンサーは
「いてぇー!」ってセリフで全部を説明しちゃった。
それに対して、田中さんは、
何も言わず仕草だけで、
痛いことはもちろん、恥ずかしさや、
その人の性格なんかも表現した。
これ見たとき、
田中さんのやり方は、
読書でいう「行間を読む」になるんだなって思いました。
仕草だけ、行動だけ、情景だけを示して、
その限定した情報から、
観ている人、読んでる人に、
もっと大きなものを受け取ってもらう感じ。
で、この『半自叙伝』。
大きな声で、
「ほらっ! 行間読んでみろ!」
って言われたような気がしました。
**********************
当ブログ執筆担当・きくちが書いた本はこちら。
**********************