2014年5月19日月曜日

『半自叙伝』(古井由吉)読みました。

昔、俳優の田中邦衛さんが、
何かのテレビ番組で、演技のことを話してました。

内容はよく覚えていないんですが、
なぜかその番組中に実演することになったんです。
たしか相手役のアナウンサーか誰かが、
往来で電柱に足をぶつけて痛がっている芝居をやり、
次に田中さんが見本を示すという段取り。

アナウンサーは、
架空の電柱にぶつかり、
ひざを抱えて「いてぇー!」と叫ぶ演技を披露。

それを見ていた田中さんは、
「そうじゃないだろう」という表情で
首を横に振り、交代します。

まずは、普通に数歩あるく。
そこで架空の電柱に、ひざが当たった素振り。
その瞬間、顔をゆがめるんですが、
言葉は何も発しません。
黙って顔をゆがめたまま、
ちょっと足を引きずり、横道に入るような動きで歩き、
そこで立ち止まって、
きょろきょろと周囲に人がいないのを確かめてから、
急にかがみ込み、ひざにふーふーと息を吹きかけながら、
さすりまくったんです。

アナウンサーは
「いてぇー!」ってセリフで全部を説明しちゃった。

それに対して、田中さんは、
何も言わず仕草だけで、
痛いことはもちろん、恥ずかしさや、
その人の性格なんかも表現した。

これ見たとき、
田中さんのやり方は、
読書でいう「行間を読む」になるんだなって思いました。

仕草だけ、行動だけ、情景だけを示して、
その限定した情報から、
観ている人、読んでる人に、
もっと大きなものを受け取ってもらう感じ。

で、この『半自叙伝』。

大きな声で、
「ほらっ! 行間読んでみろ!」
って言われたような気がしました。


半自叙伝
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