2012年8月13日月曜日

『残穢』(小野不由美)読みました。


みんなが集まって、
夜中に怖い話大会になっちゃったとき、
人の目の数をかぞえてはダメ。
何度かぞえ直しても、奇数になっちゃうから
──どう? 怖いっしょ。

でも、それよりもっと怖いことがあるんです。
それは、ぼくがこの話を聞いた相手。
もうすっかり、おじさんと呼ばれる歳になっているぼくが、
この話を聞いたのは、高校生のぼくからなんです。

それは──。
高校生のクラス旅行で、
きもだめし大会をやりました。
くじ引きで決めた男女ペアで、
そこら辺の夜道をぐるっと回って帰ってくる。

臆病なぼくは、
びくびくでホントはそんなのやりたくなかった。
だけど、ペアになったNさんに対しては、
強がってへっちゃら顔をしてました。
だってぼくは男子ですから。

「怖くないよ、お化けなんかいないんだから、
ささっと行って帰ってこよう」
みたいなことを終始わめきながら歩いていたんです。

本当は、怖いのをごまかすために、わめいていた。
「大丈夫、怖くない」って言葉は、
Nさんに向けてというより、
自分を励ます意味合いのほうが強かった。

んで、わめき続けたトークの中に、
アホなぼくは「目を数えちゃダメ」のネタを
入れちゃったんです。
「大丈夫、怖くないよ。それとね、
注意しなきゃいけないこともあるんだよ。
それはね、怖い話大会のときはね、目の数を…」
って具合です。これじゃあ、
勇気づけているのか、怖がらせているのかわからない。

これを聞いたNさんは、
ぼくのアホさ加減を見抜き、
ヘンなヤツとして記憶に留めました。

それから約30年がたちました。

ぼくは同窓会運営のお手伝いをすることになり、
そこにNさんもいたんです。
でも、ぼくは誰だか覚えてない。

ぼくの脳みその中の記憶の領域では、
きもだめし大会のことも、
ほとんどの同級生の顔や名前も、
とうの昔に削除されちゃってたんです。
それは、特別な理由があるわけじゃなく、
たんにぼくがアホだから。

「きもだめし大会のこと覚えてる?」と聞くNさんに、
「ごめん、まったく覚えない」と詫びて、
上記の話を聞きました。

ほらね。
「数えてはダメ」の話は、間接的だけど
高校生の自分から聞いた話でしょ。
まったく覚えていないという、
自分の記憶力のなさが、とっても怖い。
そう、とっても怖い話なのでした。

で、この『残穢』。
今までの話は忘れてください。
まったく別の次元で怖いです。本当に怖いです。
ぼくは二度と読み返さないと思います。
だって怖いんだもん。

残穢
残穢
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小野 不由美
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