2012年3月22日木曜日

『傍聞き』(長岡弘樹)読みました。

若かりし頃、自主映画を撮ったことがあり、
なんとか2本だけ完成させたんですが、
撮影途中で放り出してしまった作品もありました。
この本を読んでいて、
その放り投げた未完成映画のワンシーンを
ふと思い出したんです。

そのシーンってのは、
小手先のだましカットでした。

内容は、
ジャンルでいえば、いわゆるロードムービー。

3人の若者が1台の車に乗り込んで、
目的もなく「ここではないどこか」へ旅しています。
そのうち、つまらない理由でケンカが起こり、
その中の1人が、たまたま通りかかったバス停の前で、
無理矢理下ろされてしまいます。
2人になった車中。
車はしばらく走るのですが、
やがてどちからともなく
「やっぱりあいつがいたほうがいい」ってことになり、
Uターンしてあのバス停に戻ります。

そこで場面が変わり、バス停。
ちょうどバスが来たところです。
止まったバスが、ぶおんと発車して、
そのあとには、誰もいないベンチが残っています。
そこに、もどってきた2人の車が到着する。
あーあ、あいつはもう行っちゃった
……と思いきや、
道路の反対側のバス停ベンチに、ふて寝していた。

ホントに小手先のだましカットです。
映画を観ている人に、バスが行っちゃって、
あいつも行っちゃったと思わせたかった。
なんかドラマチックかなって思って、
そんなカットを撮ったんです。
結局、映画は完成していないけど。

でも、完成しないでよかったかな。
だって、こんなだましカットは余計ですよね。
そんなこと、しているヒマがあったら、
どんどんストーリーを先に進めて、
観てる人を引きづり込まないとダメですよね。
今さらながらそう思ったんです。

で、この『傍聞き』。

短編集なんですが、
どの作品にも、ぼくがやっていたような
だましカットが散りばめられていました。
「お前が未完の映画でやろうとしていたのは、
これなんだぞ。わかったか!」
といわれているような気がしちゃいました。


傍聞き
傍聞き
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長岡 弘樹
双葉社
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