2011年11月30日水曜日

『幽霊人命救助隊』(高野 和明)読みました。

処理に困っている産業廃棄物を有効利用して、
新たな製品をつくる会社に取材したことがあります。

ぼくは、その話を聞いて、
とても世の中の役に立つことだから、
みんな大賛成で、事業はスムーズに進むものだと思い、
取材中「へえーすごいですね!」
「みんな喜びますよ!」
みたいな反応を繰り返していたんです。

すると、その会社の人は、
ぼくのことをたしなめました。

「自分たちがいいと思っていることでも、
悪いと感じる人は必ずいます。
悪いとまではいわなくても、
ある人たちにとって都合が良くない場合はたくさんある。
みんなが諸手を挙げて、
“それいい!”と言ってくれることのほうが少ない。
というより、みんなが賛成するものなんて、
現実には、ないのかもしれません」

うん。この人すごいなって思いました。
普通、こんな取材のときは、
「自分のやっていることは間違いない。
ねっ、素晴らしいでしょう」って言い張るのに、
この人は違う。誠実なんだな、きっと。

一つの側面だけ見て、物事を判断すると、
間違っちゃうことがある。
でも、まったくモレのないように、
全部の側面を検討することもできない。
だから、自分が絶対とは言い切れないんだよと
教えてくれた気がしました。

とはいえ──。
文章書いたり、物語つくったりするときには、
決め打ちで進めなきゃいけない場面もあります。
取材してきた範囲の中で断定しなきゃいけないことも、
自分の中にある知識だけでキーボードを
ペコペコ打たなきゃいけないときもあります。
特定の側面だけを覗いて書いた文章ですね。
んで、そんな文章を、反対の側面の事情通が読むと、
とっても浅く感じちゃう。

まあ、浅く感じさせないように、
手を変え品を変え、見え方を工夫するのが、
ぼくの仕事なんでけどね。

で、この『幽霊人命救助隊』。

申し訳ないんですが、浅く感じてしまいました。
物語を裏付ける特定の側面の物事に対して、
ぼくがたまたま知っていた反対の側面の事情みたいなものが
見え隠れしてしまったんです。
ぼくはいい読者じゃあ、ありません。
だって物語は、決してつまらなくはないんですから。

幽霊人命救助隊 (文春文庫)
高野 和明
文藝春秋
売り上げランキング: 4383