2011年8月1日月曜日

予備知識は必要ですか?

『ヴァンパイアハンター・リンカーン』
    (セス・グレアム=スミス)読みました。

予備知識はあったほうがいい場合と
ないほうがいい場合とがあります。

辞書で「予備知識」を調べると
「事をする前に知っておく必要がある知識」って
書いてあるので、言葉の意味からすれば、
なくちゃダメみたいなんですけどね。

もう20年くらい前になると思いますが、
編集の会社に勤めていた頃、
社員旅行で香港に行ったことがありました。

そのとき、
他の仲間はちゃんと予備知識を仕入れていたようなんですが、
ぼく一人、香港のホの字も知らず、
そこが日本からどれくらい離れているかも勉強しないで、
くっついて行ったんです。

その旅行には、
いろんな観光スポットをバスで巡る行程も含まれていました。

いつくか観光地を見たあと、
バスガイドさんが「はいクーロン城に着きました」と言いました。
なにやらクーロン城はもうすぐ取り壊される予定で、
周りに柵が張り巡らしてあるものの、
その姿はもう見られなくなるから、
記念に写真を撮っておくとよいとのこと。

少しバスを止めるので、写真を撮ってこいと言われ、
みんなバスを降りて、その場でハイ・チーズ。

何枚か写真を撮ると、すぐにバスに乗り込み、
次の場所へ向かいました。

「えっ、でもちょっと待って!」
ぼくはみんなに言いました。

「今写真撮った場所のドコにお城があったの?」
コンクリの固まりをごちゃぐちゃにくっつけただけの蟻塚みたいな、
鳥の巣みたいな、ガウディさんのつくった建物に
いくつもの大砲を撃ち込んだみないな建物群の周りに
工事中の囲いがしてあったけど、

お城らしきものは何もなかったじゃない!

「お前、何でそんなことも知らないの!?」
みんなは、そんなふうに言いました。

今更ならがらWikipediaで調べてみると、
ぼくらが社員旅行した頃は、
一般的にクーロン城といえば、
クーロン城砦跡地に建てられた巨大なスラム街のことを
指していたそうです。

香港を訪れる観光客なら、
一度はパンフレットやらチラシやらで目にしているはずだと、
みんなは軽蔑を通り越して驚愕って感じでした。

さて、この場合、予備知識はあったほうがよかったのか。

予備知識があれば、廃墟のスラム街を見たとき、
「ほーっこれがクーロン城かぁ」って感心できたかもしれません。

でもそうじゃなかった。

そうじゃなかったから、
みんなから軽蔑オーバーの驚愕の視線を向けられ、
それがいつまでも印象に残って、
こうやって20年ほどたった今でも思い出して文章にできる。

予備知識があった場合は一瞬の感心だけで、
そんなに思い出には残らなかったでしょう。

で、この『ヴァンパイアハンター・リンカーン』。
どこかの書評につられて読んだのですが、そこに、
巻末につけられている解説にはネタバレ部分があるので、
決して先に読まないように
という注意が書かれてありました。

ぼくはその注意を守り、
ふだんなら途中で読んでしまう巻末の解説を
一番最後に読むようにしたんです。

でも、そこに書いてあったのは
たいしたネタバレの内容じゃなかった。

つまりは、この書評にあった予備知識も
必要なかったってことです。

わっ、いけない! 
ぜんぜん本の内容に触れずにこんなにたくさん書いちゃった。

まあ、いいか。
これから読む人がいたら予備知識はないほうがいいですものね。


ヴァンパイアハンター・リンカーン
セス・グレアム=スミス
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