会社が今の場所に移る前、
ぼくの自宅から会社までは約10キロの距離がありました。
ぼくは定期代をケチるためその道のりを自転車で通うことにしたんです。
でも、それだけでは三日坊主になる可能性があるので、
なにかしら自分を奮い立たせるものを用意したい。
そこで、毎日タイムを計り、
1分刻みで縮めていく目標を掲げたんです。
目標が決まり、そこに集中することで、
三日坊主はなんとか避けられました。
そうして会社が今の場所に移るまでの約2年間、
雨の日もカッパを着てチャリ通勤を続けたんです。
でも、そのチャリ通勤を始めた最初の半年くらいは、
毎日のように太ももが筋肉痛でした。
だらだら坂道では、ぜいぜい状態で息が切れ、
空気を吸い込むのも難儀して、
ひょっとしてこのまま倒れて、
あっちの世界にイっちゃうんじゃないかって思ったほどです。
それが半年を過ぎて、
あぁもうすぐ一年か、なんて考えるようになったころ。
筋肉痛も息切れもまったくしていない自分に気づきました。
最初のころはあんなに辛かったのに、今はなんともないじゃないか!
ここで「過渡期」って言葉が浮かんだんで、辞書で調べたら
「古いものから新しいものへと移り変わっていく途中の時期」
ってありました。
チャリ通勤を始めたころのその半年間は、
この過渡期だったんです。
チャリ通勤に慣れていない身体から、チャリ通勤用の身体に移る時期。
どんなものでも移り変わる時期ってあるんですね。
で、この『警視庁草紙』。
江戸時代が終わって明治の近代社会に移り変わる時期が舞台です。
実は……この本を読むまで、浅はかなぼくは、
明治になって近代化がなされる時代に、
この過渡期があるとは考えもしませんでした。
誰もがささっと名字をつけ、
ちょんまげが瞬間にざんぎり頭になり、
腰に差していた刀はすぐ消えちゃった、
くらいに思っていたんです。
でも、もちろん、違うんですね。
そんな簡単であるわけがない。まさに過渡期だったんです。
『警視庁草紙』──ストーリーも面白かったんですが、
そんな時代があったってことを教えてくれたありがたい本でした。
なお、ぼくの現在の会社の場所は、
自宅までの距離が約5キロ。
そんで、1カ月ほど前からランニング通勤を始めています。
今、過渡期です。
警視庁草紙〈上〉―山田風太郎明治小説全集〈1〉 (ちくま文庫) 山田 風太郎 筑摩書房 1997-05 売り上げランキング : 142403 Amazonで詳しく見る by G-Tools |