新聞や雑誌の仕事がメインになっている最近のぼくは、
ほとんどテープ起こしの作業をやらならくなりました。
テープ起こしとは、録音したインタビュー現場の音声を聞きながら、
そのまま文字に書き起こしていく作業です。
1字1句もらさず文字にしていこうとしたら、
1時間のインタビューでも、丸1日かかるほどの作業になります。
でも、昔はこの作業をしないと、記事にする原稿ができなかった。
テープ起こしをした膨大な量の文字を読みながら、
必要ない部分を削っていき、残ったのもので文章を組み立てていく。
そんな工程を経ないと、記事がつくれなかったんです。
この仕事を始めてから5〜6年は、そうやって記事をつくってきました。
それがある日突然、
「テープ起こししないで原稿を書いてみよう」って思い立ち、
やってみると、なんと!
それまでよりも、読みやすく深い内容の文章になることに気づきました。
その日から、ぼくは、
一冊の本に仕上げるような分量のあるインタビュー原稿は別にして、
新聞や雑誌などに載せる短い原稿ではテープ起こしをしなくなりました。
さて、
この5〜6年の間に書き連ねた
途方もない分量のテープ起こしの文字たちは、無駄だったのでしょうか。
もちろん、無駄じゃないって思いたい。
ぼくは、そんな下積みの作業があったから、
今があるんだと思ってるんです。
つまり、慣れ。
慣れないうちは、面倒なことでも遠回りでも、
よいしょよいしょって越えていかないとダメなんですね。
特に、もの覚えが悪く、要領の良くないぼくのような人間にとって。
で、この『今朝の春』。
シリーズ4作目ってことで、
作者が物語をつくるのにこなれてきたなって、感じました。
そして、読者のぼくのほうも、この作者の文章に慣れてきた。
そこで次は、
その慣れを「飽き」にしないため、どんな工夫を凝らすか。
これは、ぼくが自分で原稿をつくるとき
毎回頭を悩ませている事柄でもあります。
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